きものびと 荻野まどかさんが語る(後編) -着物の魅力と大学時代の心構え-
モデル、女優、歌手として幅広く活動されている京都出身の荻野まどかさんへのインタビュー。
前編では学生時代や着物モデルとしての活動についてお話を伺いました。
後編では、荻野さんの京都と着物への想い、そして中高生へ伝えたいことについて語っていただきます。
もくじ
歌手としての活動を通して感じたこと
――荻野さんは2018年に歌手デビューされましたが、経緯を教えてください
きっかけは、二条城で開催された「二条城まつり2016」にて、着物で何かして出演してくれないかと頼まれたことです。私は歌うことも好きだったので、着物で歌を歌うことにしました。
・写真提供 荻野まどかさん
このイベントには外国の方もたくさん来られるので、アニソンも披露しました。歌っている様子を動画サイトにアップしたところ、今のプロデューサーの目に留まり、「オリジナル曲がないなら作ろうか」という話をいただきました。
そこで私から、着物を着て京都らしい歌を歌いたいと提案したんです。
――デビュー曲『振り向いて京都』では、歌詞をご自身で手掛けられたのですよね?
はい。プロデューサーに自分でやってみたほうが良いと言われたので(笑)。
京都の人に親しみを持ってもらえるようにと思い、京都の地名をたくさん入れた歌詞を書きました。
――鴨川、清水、新京極、祇園、伏見、宇治……と、本当にたくさん出てきますね。
そうなんです。1番の歌詞は定番の観光地にして、京都を訪れた人が「行った!」と思えるような場所を選びました。2番の歌詞は市内の中心から少し足を伸ばし、2回目の観光で訪れてほしい場所を選びました。
――歌詞に出てくる地名の中で、思い出やお気に入りの場所はありますか?
私は伏見の病院で生まれ、七五三詣も御香宮神社だったので伏見には思い出がたくさんあります。「京都・ミスきもの」のお仕事で、酒蔵などにも行かせてもらいましたし。
祇園は伝統を強く感じる街ですが、最近は入りやすいお店もできたので、地元の人にもぜひ散索してほしいと思いました。舞妓さんのいる雰囲気や町家を見に行くと、改めて歴史ある街だと実感できますよ。
――歌手活動を始めて変化はありましたか?
イベントに呼んでいただける機会が増えました。デイサービスで歌ったりもしましたね。
昭和の歌を歌うと喜んでもらえますし、着物を着ているのでそれも喜んでいただけます。着物が元気になってもらえるツールにもなっているんですよ。
また、友達や同世代で、自分で着物を勉強して着てみようという人もいます。歌うことを通して少しでも着物を見てもらえる機会が増えてよかったなと思っています。
荻野さんが語る着物の魅力
――今日の着物のポイントを教えてください。
実は今日着ているのは母の着物です。私自身がたくさん持っているわけではなくて、母や祖母から着物を受け継いで着ています。自分が着なくなったものをぜひ着てほしいと渡してくださる方もいます。
「時代を超えて着る」。洋服ではなかなかできないのですが、着物ではそれができると思います。
また、今日は京都の学生さんに向けてということで、京都の職人の方が作られた金銀糸を使った帯を締めています。この帯に描かれているのは京都の北山杉です。
一つ一つ難しい技法で手間や時間がかかっている、そんな「アート」を着られていることが嬉しいです。
――洋服の時と気分は変わりますか?
そうですね、気分は変わりますね。着物って着付けが面倒と思われるかもしれないですが、その日の気分によって今日はこういう風に着たいと着方を変えられるんですよ。
例えば少し帯を高くするとか襟の抜け具合を変えるなど、工夫ひとつで若々しくしたり、少し大人っぽくしたり、雰囲気を変えることができます。自然と着方や柄の意味も分ってきます。
また、着物の着方に興味を持ったことで時代劇が面白くなりました。京都学生広報部のみなさんのように京都の学生であれば、今後南座へ歌舞伎を観に行く機会などあるかもしれませんよね。
着物に接していると演目だけでなく、歌舞伎の衣装にも注目するようになります。
着物から派生していろんなことを調べたり見ていると、伝統文化はどこかでつながっていることを感じます。
格式高いというイメージは取り払って、もっとカジュアルに、楽しんで欲しいというのが私の活動のモットーです。皆さんの着物に対するハードルを少しずつ下げていきたいと思っています。
――学生はどんな場面で着ると良いですか?
ごはんに行く時、テーマパークに行く時など、まずは好きな時に着物を着ておでかけしてほしいです。夏だったら浴衣を着たらいいですね。
浴衣は着やすいし一番簡単なので、夏に一度は着てほしいです。
浴衣をうまく着ることができればその上にもう一回同じ作業をすると着物が着られるので、それを分かっておくとオールシーズン着られるようになります。春や秋のおでかけシーズンに着物でお出かけできると楽しいですよ。
また、邪道ともいわれますが、長襦袢という、洋服でいうブラウスに当たるところにタートルネックのシャツを着たり、本当にブラウスを着る着方もあります。近ごろは多くの人がそういった着方をしています。
はじめは基本の着方を勉強してほしいですが、そこから崩して着てみるとハードルが下がります。草履が面倒だったら靴を合わせるなど、自由な着方や合わせ方で気楽に着物ファッションを楽しんでほしいです。
まずはお母さんの箪笥(たんす)から気に入ったものを見つけてみてはいかがでしょうか。着物と帯、小物の組み合わせを工夫することでいくらでも可愛くなりますし、古着屋さんで掘り出し物を探すのも楽しいと思います。
京都大学の学生団体「京都着物企画」を取材した記事はこちら
中高生に伝えたいこと
――大学から京都に来る中高生に知ってほしいことはありますか?
自分のお気に入りの場所を1つ見つけてほしいです。もちろん清水寺や金閣寺も素敵な場所ですが、「私はここのお庭が好き」とかそういう場所を見つけることですかね。
私は無鄰菴(むりんあん)というところが好きです。美しい庭園があり四季の移り変わりを東山の景色とともに感じることができます。じっと見ていると心が落ち着き懐かしい気持ちになったりしますね。
京都はいろんな人を受け入れる街だと思うので、自分の居場所がきっとあると思います。
この道を通ると特別な気持ちになるとか、有名な場所ではないけどお気に入りの桜が咲くこの場所が好きだとか。何気なくいつもと一筋違う路地を入ったところに居心地のいいカフェがあったりなんてことも。
そういう道や場所を知っていると、何年経っても思い出すことができて楽しいですよね。風情や情緒がある京都でみんな1つずつお気に入りを探してほしいな。
無鄰菴の魅力はこちらでご紹介しています。
自分で踏み出さないとチャンスは逃げていく
――大学で一歩踏み出そうと思っている学生にアドバイスを頂けますか?
高校まではみんなと一緒にやることが多いかと思います。友達と同じ勉強をこなし、部活もみんなでやるじゃないですか。それも楽しかったけど、大学からは急に単独行動になってきますよね。
大学時代は、何事も1人で決めて、1人で行って、1人の楽しみ方を見つけるというか。
例えば、私は大学外での活動を始めたことで、学外の友達が増えました。
自分がやることに責任を取るのは自分しかいないというか、みんなと一緒にやっていたら何とかなったというようなことがなくなりました。
だから4年間でやりたいことをやっておかないと後で後悔する気がします。
例えば留学に行くことを良いなと思う反面、こわいなと感じることもよくわかります。でも行くと決めることや行ってどうするかは、自分しか選択できないですよね。
もし行きたいと思ったなら行ったほうが良いと思います。他人に迷惑をかけないなら何でもやったら良いと思います。
大学では、自分でガンガン行かないとチャンスは逃げていくと思います。4年間あると思っても後半は就活やゼミや卒論など、やらないといけないことがあるので。自分にとって「今しかできない」経験は誰も教えくれません。
大学時代の友達との関係は今も続いていますが、私はそれ以外の自分も見つけることができて、さらに世界が広がりました。
怖気づいてやらなかったら出会えなかった人がたくさんいます。
「もしかしたら違うことに繋がるかも」とか、 「この出会いで何かあるかも」と思って好奇心にまかせて活動してきたことがよかったと思っています。
取材を終えて
今回の取材を通して、荻野さんの活動の裏側にある想いを知ることができました。
「自分がやることに責任をとるのは自分しかいない」「自分で行かないとチャンスは逃げていく」といった言葉はみなさんにも届いたのではないかと思います。
また、様々な活動を通して着物の魅力を発信されている原点についてもお話して頂きました。
インタビューを受けてくださった荻野まどかさん、ありがとうございました。
京都には夏の祇園祭や、世界遺産など、浴衣や着物で出かけると楽しい場所がたくさんあります。お話を伺って、僕も着物をレンタルしてお出かけを計画したくなりました。
着物で京都観光を考えている方にお知らせ
「京都きものパスポート」をご存知ですか。
「京都きものパスポート」は、京都のまちにきもの姿の方を増やして、和装産業を盛り上げることを目的とした取り組みです。
きもの姿で協力施設・店舗を利用すると特典を受けることができます。美術館の入館や買い物、飲食などの特典が受けられる施設はなんと約400軒もあります。
現在配布されているパスポートの有効期間は2019年10月1日~2020年9月30日までです。
詳細は、http://kimono-passport.jp/をチェック!
(取材・文)同志社大学 法学部 梅垣 里樹人
(撮影) 龍谷大学 政策学部 今西 賢