インタビュー

【1000年企業インタビューvol.6】 着物生地の歴史と居場所を守る~株式会社千昇堂・長谷川代表にインタビュー~

【1000年企業インタビューvol.6】 着物生地の歴史と居場所を守る~株式会社千昇堂・長谷川代表にインタビュー~
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みなさん、こんにちは!

京都学生広報部(コトカレ)では現在、「これからの1000年を紡ぐ企業認定」に認定されている企業にインタビューを行っています。

「これからの1000年を紡ぐ企業認定」は、社会の課題を“ビジネスの力”で解決しようとする企業を応援する京都市の取り組みです。福祉・環境・教育・まちづくりなど、多彩な分野で挑戦する企業が認定されています。

 

~これからの1000年を紡ぐ企業認定 魅力発信インタビューとは~

こちらのリンクに詳細が記載されています。ぜひご覧ください!

【連続企画スタート!】京都で「ワクワクするシゴト」を見つけよう! 〜 コトカレ × “これからの1000年を紡ぐ企業” 〜

 

今回インタビューさせていただいたのは株式会社千昇堂(以下、千昇堂)。

千昇堂では、使えなくなった着物生地を日用品に変えて提供する事業「いと半」を展開しています。

ボディタオルなどの商品はインターネット等での販売に加えて、ホテルの部屋に置いて体験してもらい、そのままお土産ショップで買っていただくこともあるそうです。

伝統ある着物生地を現代のライフスタイルに落とし込んだ「いと半」の歩みとそこに込めた想いを、代表・長谷川さんに伺いました。

 

着物生地を「使う」という発想

 

―はじめに、千昇堂が始まったきっかけについて教えてください。

私の家は元々、一代目が染め屋として始まり、その後、着物のプロデュースやメンテナンスを一手に引き受ける「悉皆屋(しっかいや)」を営んできました。三代目の父が呉服屋として事業を展開していましたが、バブル崩壊後の着物離れもあり、業界全体が非常に厳しい状況にありました。

私は一度別の仕事に就いていましたが、呉服屋の娘として育ち、父が寂しそうにしている姿を見て「私にできることはないか」と考えていました。そんなときに父の会社で目にしたのが、倉庫に眠る膨大な数の白い反物(たんもの:着物を染める前の白生地)でした。

 

―その反物が、今の事業の原点になったのですね。

はい。着物はまず白生地を織り、それを染めて仕立てるのですが、倉庫に眠っていた白生地は長い年月の間に、日光や湿気の影響で「生成り(きなり)色」に黄ばんでしまっていました。生成り生地は、白く染め直してからでないと着物生地としては使えず、コストもかかるので倉庫に大量に置かれていましたね。父は、プロの商人として、それを「売り物にならない、恥ずかしいもの」としていました。

でも、私にはそれが何十年もの時間もかけて変化した唯一無二の宝の山のように見えました。

「新しいまま使われずに捨てられるのを待つだけの生地たちを、もう一度、現代の生活に溶け込む商品として意味のある生地に蘇らせたい。」

その想いから、2019年にブランド「いと半」を立ち上げました。

 

―最初に長谷川さんが生成り生地を別のものに変えたときのお父様の反応はどのようなものだったのですか。

もう大反対でしたね。呉服屋として、まず着物を切ったり水に濡らしたりするという発想が良くないという考えがありました。呉服の世界では、反物はあくまで「着るもの」であって、それ以外の用途に使うべきではないと考えていたと思います。

最初に開発したのは、シルク100%の洗顔パフとボディタオル「SHIROTSUKI」でした。父に頼らず、自分一人で産地の丹後・園部へ通い詰め、伝統工芸士の方々と協力して「水に濡れても摩擦に強く、肌に優しい生地」を追求しました。

最初は反対していた父も、実際に商品が出来上がり、取引先が増えていく中で少しずつ認めてくれるようになりました。

洋服が当たり前の現代で、着物を「着る」ことのハードルは確かに高いです。

でも、シルクの心地よさや織りの美しさを「使う」ことで体感してもらえば、そこから着物の文化に興味を持つ入り口が作れると考えました。

ちなみにブランド名の「SHIROTSUKI」も、「絹」という漢字を分解した読み(糸=し、ロ=ろ、月=つき)に由来しています。素材そのものへの敬意を込めて名前を付けました。

「着物文化」を守るためにも、まずは「着物生地を使う文化」を当たり前にしていきたいと考えています。

 

長く愛されるものをつくる

 

 

―では、着物生地を使うという新しいやり方の中で、大切にしていることはありますか。

「流行りに乗らないこと」です。インバウンド向けの柄を作ったり、一過性のブームに乗ったりするのは私たちの役割ではないと考えています。いと半のブランドとしては長く愛されて、そして自然に寄り添えるということを大事にしています。

 

―ブランドとしてのコンセプトは具体的にはどのようなものですか。

反物は、それぞれ柄が違っていて、同じものが一つとして無いのが良さだと思います。それから、壊れにくいのも良い点ですね。今の世の中は、すぐに捨てるもので溢れてしまっていると思いますが、この何十年という年月を経て生成り色になった生地をあえて使うことに意味があるのではないかと考えます。

また、特別な手入れをしなくても普段の洗濯で気軽に扱える仕様にすることで、伝統素材を特別なものではなく身近なものへと変えています。

 

(千昇堂HPより引用 SHIROTSUKI シルクタオル しろつき )

 

―この事業をやっていく中で難しいことと面白いことをそれぞれ教えてください。

着物の良さを残すことと日常に溶け込ませることのバランスが難しいですね。格式が高く近寄りがたいまま衰退していくよりは、身近に感じてほしいと思いますが、ブランドとしての価値は変えずにいたいです。

“面白いこと”は少し大げさな気はしますが、この使われなくなった生地たちの「居場所」を見つけることです。商品を売ることは難しいのですが、使っている生地自体は日本の職人技の結晶であり、良いものだということが、どんな人にも伝わります。それを普段使いするものとして新しい場所を見つけるのが私たちの仕事だと考えています。

実は株式会社千昇堂では、この「いと半」事業の傍ら、カウンセリング事業や福祉事業も行っています。一見バラバラに見えますが、根底にあるのはすべて「居場所づくり」なんです。使われなくなった生地の居場所、生きづらさを抱える人の居場所、そして日常に疲れた人の心の居場所。すべてが私の中で繋がっていると思っています。

 

―着物生地を使って着物文化を残していくということで、この事業の最終目標は着物を着る人が増えることなのでしょうか。

そうですね。いと半の商品が売れることが、着物を着る人が増えることに直結するわけではないと思っています。着物の良さに触れる人を増やすことは、事業の最終目標よりも少し大きい目標になるかもしれません。それでも、それが重要な段階であると考えています。着物を着てもらうためには、やらなければいけないことがまだまだたくさんありますね。

 

若者とのかかわり

 

―過去には近畿大学の学生さんと2年間プロジェクトをされたそうですね。

私自身も学生と一緒にマーケティングを学び、若い感性に刺激を受けました。参加してくれた学生さんは着物に初めて触れる子ばかりでしたが、生地に触れるうちにその良さに気づいてくれました。ゼミで一緒に新商品を考えたのですが、そこから実際にアイピローが商品化しました。

 

―学生が着物に触れるファーストステップとしては何が良いでしょうか?

観光地でやっている着物レンタルはすごく良い体験だと思っています。着物に触れるのに一番早い体験ですよね。ぜひ機会があれば体験してほしいです。

それから、特に女の子は成人式ですね。親や親戚の振袖を譲り受けることで着物は長く使われ続けるし、みんな嬉しいじゃないですか。その「譲り受ける」という部分をもう少し掘っていきたいと考えています。

 

京都の着物を着た観光ルートの記事はこちら↓

京都のレトロ建築と渓谷美を着物で堪能!女子大生おすすめ観光ルート | コトカレ

 

―私も成人式での振袖を着る経験は新鮮でとても楽しく、印象的なものになりました。

最後に、この記事を読んでいる学生にメッセージをお願いします!

学生に限らず若者に向けてですが、新しく事業を始めた一人としてアドバイスは3つあります。

1つ目は、人の目を気にしないことです。自分がやりたいと思ったことは誰が何と言おうとやってほしいです。誰かが、ではなくて「私が」という生き方をしてほしいです。

2つ目は、時間は有限だということを知ってほしいです。何を始めるにも早ければ早いほどその人にとってチャンスや可能性が多くあると思います。

3つ目は、楽しむことです。楽しんで、自分を好きになれば、それが自信や志につながると思います。だから、私はこの3つをしてほしいし、自分もそうでありたいと思います。

 

 

おわりに

長谷川さんへのインタビューでは、着物を着るのではなく「使う」という新しい発想と着物の文化を守るという歴史を重んじる考え方の両方が感じられました。

伝統産業が直面している問題について日常で考える機会はなかなかありませんが、今回お話を聞いたことで、改めて伝統を大切にしていきたいと感じました。

京都には着物に限らず長い歴史を持つものが多くあるので、積極的に伝統産業に触れていきたいですね!

 

 

(取材・文 京都府立大学 生命環境学部 井手上友香)

(取材・文 京都工芸繊維大学 工芸科学部 佐藤浩一)

 

 

この記事を書いた学生

井手上 友香

井手上 友香

京都府立大学 生命環境学部

中華料理とタイ料理が大好きです。