インタビュー

【1000年企業インタビューvol.5】 「お酒造りはサイエンス」― 松井酒造15代目当主が語るお酒造り

【1000年企業インタビューvol.5】 「お酒造りはサイエンス」― 松井酒造15代目当主が語るお酒造り
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みなさん、こんにちは!

京都学生広報部(コトカレ)では現在、「これからの1000年を紡ぐ企業認定」に認定されている企業にインタビューを行っています。

「これからの1000年を紡ぐ企業認定」は、社会の課題を“ビジネスの力”で解決しようとする企業を応援する京都市の取り組みです。福祉・環境・教育・まちづくりなど、多彩な分野で挑戦する企業が認定されています。

~これからの1000年を紡ぐ企業認定 魅力発信インタビューとは~

こちらのリンクに詳細が記載されています。ぜひご覧ください!

【連続企画スタート!】京都で「ワクワクするシゴト」を見つけよう! 〜 コトカレ × “これからの1000年を紡ぐ企業” 〜

今回第5弾として訪れたのは、左京区に蔵を構え、今年創業300周年を迎える松井酒造株式会社(以下、松井酒造)。
「水の都」と呼ばれる京都で美味しいお酒を造り続ける、15代目当主、松井治右衛門さんにお話を伺いました。

松井酒造の酒造りとは

―まず、日本酒の製造手順を教えてください。他の酒造さんと造り方の違いなどもあるのでしょうか?

結論からいうと大手の酒蔵さんと私たちでは製造の体制が結構違います。

大手さんは

  • 玄米の仕入れからお米を蒸すまでの「原料処理」と呼ばれる工程
  • 蒸したお米を麹室に引き込んで麹を作る
  • その麹を使って、「酒母(しゅぼ)」と呼ばれる「もと」を立てる
  • そして酒母を発酵させる
  • 最後にお酒を絞る

という5つの工程をそれぞれの人が担当する分業体制です。
一方、私たちの規模だと、今説明した作業を従業員全員で行っていますね。

―松井さんご自身のこれまでの経験などで、今の仕事に生きていることはありますか?

私は先代から「大学までは好きなことをしていい」と言われていたので、大学では法学部で刑法の勉強をしていました。どちらかというと酔っぱらいを捕まえる方でしたね(笑)。

日本酒の定義とか、そういうものは全部酒税法に書いてあるんですけど、自分は法学を学んでいたからか、法文を読むことがあんまり苦ではないですね。酒税法に詳しい酒蔵の社長さんはあんまりいないような気がします(笑)。

大学では文系の勉強をしていましたが、実は化学とかの理系分野も嫌いじゃなくて。私たちのユニフォームの袖には、アルコール発酵の化学式が書いてあります。化学式は世界共通語なので、漢字で「松井酒造」が読めなくても、袖の化学式を見るとお酒を造っていることが外国の人でも一目で分かるんです。何回か袖をグッと掴まれて「君、お酒造ってるよね」って外国の人に言われたこともありました。

―実際、海外への販売はどれくらいされているのでしょうか。

海外への販売は会社全体の売上の20%弱で、韓国、香港、オーストラリア、カナダが多いです。
最近はカンボジアでも販売していますね。ここ2年はずっとカンボジアのプノンペンに行って、プロモーションイベントを開いたりしています。

「日本酒との出会い」を作る

―海外同様、若い人に人気の日本酒はどのようなものなのでしょうか?

私たちのお店では、低アルコールで飲みやすい初心者向けのものとして、甘めでスパークリングの日本酒商品を出しています。
今はお酒の低アルコール化が進んでいますし、日本酒の中では甘みがあるものが最初は受け入れやすいと思います。

日本酒を美味しいと思える味覚は、実は後天的に獲得する味覚だと言われているんです。いろんなものを食べていく中でだんだん味覚が変わって、ある時日本酒が美味しいと思える日が来る。今は「日本酒離れ」が起きているので、その経験値を積む前の段階で、日本酒を飲まなくなってしまっています。

最初に日本酒を飲んだ時に「美味しいな」とか、「まあまあいけるかも」って思ってもらえると、その後も居酒屋のメニューにある日本酒の欄が目に入ってきます。ところが、最初に飲んだ瞬間「うわ、これダメだ」となると、もう日本酒メニューのところを飛ばしてしまう。飲み放題で「冷」か「熱燗」だけ書いてあるものは、日本酒に慣れている人たちにとって美味しいお酒であって、ビギナー向けのお酒ではありません。だから最初に飲むとき、ファーストインパクトで美味しいって思えるお酒を作らないといけないと思います。

―ちなみに、酒蔵というと長く続いている伝統的なイメージがありますが、例えば若い人が新しく起業して酒蔵を営むことは可能なのでしょうか?

そういう夢を持っている若手の方はいらっしゃいます。ただ、現状においては国の制度上、日本酒の醸造免許を新規で取得することは難しいのが実情です。でも、経営や後継者の問題で辞める酒蔵さんは割と多く、今皆さんがもし日本酒を造りたいなと思ったら、そうした辞めていく酒蔵の免許を買って、お酒造りを始めるという方法があります。

「お酒造りはサイエンス」

―お酒を造る上で松井さんが一番大切にしていることは何ですか?

私は基本的にお酒造りをサイエンスだと思っています。
データを取りながら良いお酒を造るっていうのは、再現可能性という意味でとても大切なことなんです。

杜氏(とうじ:酒蔵における日本酒製造の責任者)さんの経験とか勘だけに頼ると、改善点が見出しにくくなってしまう部分があるので、言語化して数値で表すのは大事なポイントだと感じますね。

ただ同時に、お酒は飲んだら酔っ払いますから、ある程度のエモさも必要だと思うんです。最近は杜氏さんの経験が必要なくて、コンピューターでお酒を造る酒蔵さんも中にはあります。ハイレベルなお酒を造られますが、やはり人の手が入っている方が美味しいと感じるんじゃないかなと思います。
そういう手造りの良さを伝えることを大切にしています。

―お酒を造る仕事をしていて、一番ワクワクするのはどんな瞬間ですか?

酒母を発酵させている時とお酒を搾る時は全然違うので、その瞬間はワクワクします。
あとは、お客さんが「美味しい」って言ってくださる瞬間を一番大事にしています。

繰り返しになりますが、お酒造りは基本的にサイエンスだと思うんです。お酒造りの中でいろんな数字が溢れることは、手造りの良さだと思っています。その中には毎年変わる数字「変数」があって、自分たちでコントロールできる数字とできない数字がある。

例えば、お米の精米度合いやアルコール度数は自分たちで変えられますが、「この年のこの地方のお米がどうだ」っていうのは、私たちの力ではどうにもなりません。ただ、コントロールできない「変数」から情報を得て、お酒に落とし込むのが手造りの良さなんじゃないかと私は思っています。

大量生産する場合はその情報を切り捨てて商品にしていきますが、私たちはできるだけ情報量の多いお酒にしていきたいです。

―お酒を科学して研究しているんですね。

そうですね。勘は情報が集約した結果の経験なので、長い間杜氏さんとしての経験がある人たちの力量というのはすごいんです。
ただ、お酒造りのキャリアがない人たちはそういうものがないので、データはしっかり取っていった方がいいなと思います。

―お酒造りに関して、「固定」が守らなくてはならない型や伝統であるのに対して、「変数」は“遊び”なのかなと思っています。松井酒造さんの「変数」にはどんなものがあるのでしょうか。

麹の造り方や種類によって変化する育て方などは「変数」に当たる所かなと思います。造り手や杜氏の勘が働く難しい作業なんですけど、それをずっと付きっきりで見られるのは小さな酒蔵の強みだと感じます。

あとは水ですね。松井酒造では成分調整をしない水を使っているので、季節によってちょっとずつ硬度が変わるんです。

また、発酵は一本一本タンクによって違うので、お酒を搾るタイミングも変わってきます。同じお米で同じ精米具合でやっていても、こっちは30日で目標のお酒になったけど、あっちは32日経ってもまだ余力が残っているみたいなのがあるので。

大規模な酒蔵さんだと「30日でお酒搾ります」って決めたら30日で搾ると思うんですけど、私たちは「もうちょっと置いておこう」っていう判断ができたりもします。

松井酒造の挑戦

―お酒造りに関して、松井酒造で挑戦されていることを教えてください。

ボトルによって違いますが、ボトルの裏にQRコードを付けていて、スマートフォンのカメラでラベルを読み込んでいただくと動画が再生されるようになっています。
お米を洗う、麹を造る、お酒を搾るといった製造の工程を1分動画にしています。
コロナ禍で酒蔵見学ができない時期に、お家でちょっと見ていただけるようにと思って始めました。

―どこからインスピレーションを受けたのでしょうか。

ハリーポッターの映画の冒頭部分に写真が動く新聞が出てきますよね。あのシーンから発想を得ました。ただ、今の技術じゃまだできないということで、今はこの形になっていますが、いつかはボトルのラベルが動くようにしたいです。

他にも、NFCラベルという新型のラベルがあるんですが、スマホを近づけるだけでリンクが出てきて、アンケートを取ることができます。

「私たちの商品をどこで飲んでますか?」っていうアンケートに、「ニューヨークで飲んでいる」って答えると、世界地図のニューヨークの部分にボトルの形のピンがポコンって立つんです。仕掛けとして面白いし、私たちのお酒がどこで飲まれているかがよく分かって、マーケティングにも使っていきやすい。こういうものも試験的に行っています。

その他は、よく言われているSDGsを経営のヒントにして、無駄のないもの造りを心がけています。
1トンのお米を使ったら、うちの場合500キロが酒粕になります。冬場だと粕汁などの用途で買ってくださることもありますが、夏場だとなかなか酒粕が売れなくて。
今は酒粕をスピリッツの原料にしたり、鯖の餌にしてもらったりしています。

鯖街道という街道が福井から京都にかけて通っているのですが、鯖街道の終着地点は出町柳なんです。終着地点にある酒蔵の酒粕を、福井県小浜市の養殖鯖の餌として使っていただいています。
「酔っぱらい鯖」というブランド鯖で、その鯖は松井酒造の酒粕を食べて育っています。

地域と一緒に何かやっているっていうのは、会社としてすごく楽しいし、ありがたいことですね。

―鯖街道を通じてお酒が繋がっている感じがします。

今では小浜高校の学生さんたちのアイデアで「酔っぱらい鯖」が宇宙食になって、ISS(国際宇宙ステーション)で食べられているそうです。私たちの作った酒粕が宇宙に行ったと思うと嬉しいですね。

―松井酒造というと「神蔵」が非常に有名ですが、日本酒以外のお酒の展開は今後あるのでしょうか。

日本酒蔵なので、あくまでも日本酒に関係すること、もしくは京都に関係することをしたいと考えていますね。日本酒以外だと、現在は「輪廻」という名前のリキュール、ジン、ラムを作っています。ラムは、京都の伏見区で作られているサトウキビを原料にしています。

京都でつなぐ伝統

―京都という場所の気候や、文化、水などから酒造りに影響を受けている部分はありますか。

先ほどもお話に出ましたが、お水はすごく大事にしています。多分京都じゃなかったら、お酒を作ろうと思っていなかったかもしれない。今は気候変動などが理由で、北海道に移転されるような酒蔵さんもありますが、多分京都じゃなかったらやってないんじゃないかなって思います。

―京都で日本酒というと伏見区が有名だと思いますが、左京区で営まれている強みはありますか。

伏見は規模の大きい酒蔵さんがあり、地下水も使え、できたお酒の輸送もしやすい、土地も広いっていうのが強みだと思うんです。
ただ、ここ左京区は観光のついでに気軽に来てもらうことができる。その辺はすごくいいと思いますね。

―京都は学生のまちと言われますが、大学との繋がりもあるのでしょうか。

同志社大学の政策学部さんとか、京都女子大学さんなどに呼んでいただき、お酒の話や伝統産業の話をさせていただいたことがあります。キャリア形成の中で、失敗した後のリカバリーをどうするかみたいな話をよくしますね。

―最後に、社長が描くこれからの松井酒造の未来を教えてください。

私には子供が3人いるんですけど、全員女の子なんです。私の目標は、彼女たちが23歳ぐらいになった時に、「酒蔵に就職してもいいかな」って思ってもらえるようにすることです。女子大生に就職しようって思ってもらえるような会社になったらいいですね。

今年300周年という節目を迎えたので、まだ発表もできないこともありますが色々考えています。

取材を終えて

店内に一歩足を踏み入れただけで、たちまち酒蔵特有の芳醇な香りに包まれ、お酒がまさに今ここで生まれていることを実感しました。
伝統を守るだけでなく、斬新なアイデアを次々と形にする松井さんの姿がとても印象的でした。
300年続く歴史を、時代を経て常にアップデートし続ける、松井酒造のこれからが楽しみです。

(取材・文 同志社大学 文化情報学部 齊藤夏帆)
(取材・文 京都橘大学 経営学部 片山治樹)
(取材 同志社大学 法学部 足立隼太郎)
(取材 京都工芸繊維大学 工芸科学部 佐藤浩一)

この記事を書いた学生

齊藤夏帆

齊藤夏帆

同志社大学 文化情報学部

かほじゃなくてなつほです。主食は音楽。