京都在住アーティストに迫る! ~音楽を通して感じる京都とは?@十一/juuichi編~
京都在住アーティスト特集第2弾。今回取材したのは、十一(juuichi)さん!
十一は、チャップマンスティックという日本では非常に珍しい楽器を操る(国内の奏者は10人に満たないとか)、辻 賢(つじさとる)さん(写真、右)とソプラノヴォーカルの鳥井麗香(とりいれいか)さん(写真、左)が組んでいるユニットです。アメリカの楽器であるチャップマンスティックと西欧の歌唱法であるソプラノの融合を和のテイストで変換させ、四条河原町の路上や白沙村荘などのお寺を中心に演奏されています。
今回は、取材の時に実際に演奏してくださった動画があります。この記事の最後にリンクを掲載しているのでぜひ最後までお楽しみください。
もくじ
自らの興味を追い求めた先に見つけた自分だけのスタイル
チャップマンスティックは、世界でも9000本ほどしかなく、日本での奏者は十人ほどの 楽器。そして、ソプラノのヴォーカルもユニットの歌い手として聞くことは少ない。そんなおふたりにそれぞれのスタンスに行きつくまでをお伺いしました。
辻:3歳の頃からヴァイオリンを習っていました。大学生の頃に軽音のサークルに入ってギターにはまった後に今の楽器(チャップマンスティック)に出会いました。
―チャップマンスティックは、どうやって見つけたんですか?
辻:まだ、インターネットがなくて情報を仕入れるのがテレビや雑誌だった頃に見つけました。読んでいた雑誌に、当時好きだったギタリストの機材紹介があって、その中にこの楽器の写真が一枚だけあったんです。その楽器の無骨さに惹かれてどうしても欲しくなり、口コミで情報を集めました。そして、アメリカにある個人の輸入楽器屋さんに頼み込んで、とても手に入りにくかったチャップマンスティックを買ってきてもらったのが始まりですね。
鳥井:私は、小さい頃から友達と一緒にアニメやドラマの主題歌などを歌うことが好きでした。でも、本格的に歌を始めたのは遅くて高校3年生の時なんです。もともと音楽は好きでしたけれど、漫画を描いたりする絵のほうに興味があったんです。中学2年生の時に、フィギュアスケーターの荒川静香さんが躍った曲の中にピンとくるものがあって、「私これやりたい」って思いました。それからいろんな音楽を聴くようになって、クラシックやクラシックを少しポップにアレンジしたものに興味を持ったんです。親の反対を受けてなかなか始められなかったんですけど、私の情熱に周囲が動いてくれて先生を紹介してもらって、アルバイトで稼いだお金で18歳から声楽(クラシック)を本格的に習い始めました。
―おふたりの出会いは?
鳥井:私が19歳の時ですね~。あるバンドのコピーバンドをやりたいって言った時に知り合いの知り合いが辻さんを連れてきたんです。その時は普通にエレキギターを持ってきたんですよ。でも、そのコピーバンドが終わった後、辻さんが「一緒に弾き語りで歌ってみない?」って誘ってきて、アコースティックギターのつもりで返事をしたのに、出てきたのがあの楽器(チャップマンスティック)だったんですよ!
辻:まあ、はい…(笑)。
鳥井:ただ、そんなに自分の中で楽器に執着がなかったので、わりとすんなり受け入れられたんですけど…(笑)。
情熱から手に入れた自分なりのスタイルと、勘違いから始まった出会い。話はやがてチャップマンスティックの仕組みのことへ
辻:チャップマンスティックは、ピアノを縦にしたような楽器です。弾き方は、ギターやヴァイオリンの原理を応用できます。ただ、ピアノと大きく違うことは、調の変化がとても簡単なんですよ。
今回は特別に幼い頃からヴァイオリンを習っていて、今でも立命館大学交響楽団でヴァイオリンを演奏している1回生の藤田詩緒里さんと、楽器未経験の京都学生広報部員、山元翔吾(福知山公立大学2回生)にチャップマンスティックを体験していただきました。
藤田さんは、押さえるだけで音が鳴るのが新鮮とびっくり顔。そんな藤田さんに、辻さんは「初めてにしては上手で筋が良い」と一言!
一方で、楽器未経験の広報部員の山元。音は鳴るもののなんだか頼りない…(笑)。
本人も難しかったらしく、見守っていた部員たちに頻繁に救いの目を向けてきました。そんな山元にも辻さんは「なかなか上手!力んでないのが良い」と。…お世辞じゃないですか?辻さん(笑)。
成り行きで来た京都。でもここに居場所を見つけた。
地元の岐阜県でユニットを組み、京都に出てきたおふたり。成り行きで京都に来て、知らぬ間に留まっていたという。そんなおふたりに京都の魅力を伺ってみました。
辻:小学校と中学校の修学旅行が京都で、そこで仏像の写真集を買ってよく見ていました。今考えると、小さい頃から心のどこかで京都に対するあこがれがあったのかもしれません。
鳥井:京都は、戦争でもあまり焼け野原になっていないですし、昔を重んじながら進んでいる街だと思います。だから、外国を見るという点においても、他県とは少し違うと感じています。他県が外国の文化を単体で見ることに比べて、京都は、日本というフィルターを通しながら、外国を見るというか…。京都は日本という昔からのアイデンティティを保ちつつ、外国のモダンなものを取り入れる人が多い気がしますね。
それが私たちの音楽の作り方と似ているんです。チャップマンスティックは、アメリカの楽器ですが、まだ歴史がとても浅いんです。それに比べて声楽のソプラノは、古代ヨーロッパから伝わる伝統的なもの。古典的なものとモダンなものを融合して、新たな音楽を作り出すという私たちのやり方と京都の文化の取り入れ方は、とても似ていると思うんですよ。
辻:そういう点で、京都はとても居心地がよく、波長が合っている気がします。僕たちの音楽を聴くと、何か懐かしさを感じるという人が多いんです。そして、京都を訪れた多くの日本人が古来の日本に思いをはせて、郷愁を感じますよね。そういうところが似ていると思うんです。
鳥井:私たちの音楽は、「日本人が音楽をやる意味」を重視しています。その部分が京都に住む人のアイデンティティと似ていると感じます。地元が京都の方にも、京都に魅力を感じる人や外国人の方にも、自分たちの音楽を賞賛してもらって…、今に至る感じですね。
話はいつしか、「京都のご飯は何でもおいしい」と、パン屋さんの話のことに。とあるパン屋さんのシンプルさが素晴らしいということから派生し、自分たちの音楽の話へ。
鳥井:私たちの音楽もどんどんシンプルにしていっているんです。ソプラノは、体から発する声だけで勝負しているので、至ってシンプルですが、チャップマンスティックは、電子楽器です。様々な機械に繋げると、音色を変えることができたり、ミスを目立ちにくくすることが可能です。
辻:そうなんです。昔は、僕もチューニングをしていましたが、今では一切やらなくなりました。チューニングをすると、どんな楽器を使っても全部似たような音に聞こえてしまうんですよ。そうではなくて、楽器本来の音を純粋に楽しんでもらいたいと思って…。チャップマンスティックは、木でできているので、湿気が多い日本では日によって音が変わるんです。聞いている人たちには、そういう所も楽しんでもらいたいと思っています。
鳥井:実は、楽器の音をいじらずに演奏するのはとても難しいんです。シンプルにしていけばいくほど、素材本来の音で勝負することになりますから。
全国の中高生へ
~好きなことを仕事にするとは?~
やりたいことが今の仕事に直接つながっているおふたり。そんなおふたりに、趣味を仕事にできることが羨ましいと言うと、鋭い意見が返ってきました。
鳥井:好きなことを仕事にする、最大の利点は、根本に「好き」という気持ちがあることです。だから、なんだかんだ続けていけるんですよ。辛いことがあったり、壁にぶつかった時でも、「これしかない、だからやるしかない」って思えるんです。
辻:一度始めてしまったからには、簡単にやめることは不可能です。「好き」な事を仕事にしたわけですから。
鳥井:でも、褒められた時の喜びは、仕方なくやっているものとは断然違います。自分たちがやっていることを分かってくれる人がいる、そう思うともっと頑張ろうって思えます。
辻:好きな分、見返りが大きいんです、良くも悪くも。好きだから、褒められるともっと好きになるし、否定されると、嫌いになるんです。でも、一度仕事として始めてしまった以上、良いと言って称賛してくれる人たちに対して、責任が生まれます。「この人たちの為に、続けないといけない。この人たちを次はもっと感動させないといけない」って思うんです。
鳥井:「好き」を仕事にしてしまった以上、それは「自分だけの好きなこと」ではなくなるんですよね。
辻:だから、気楽に好きなままでありたいならば、趣味で留めておくべきですね(笑)。
~取材を終えて~
十一のおふたり、ありがとうございました。外から入ってきたおふたりだからこそわかる、客観的な京都の魅力。本気で「好き」な事と向き合っているからこそ出てくる言葉があったのではないかと思います。
部員たちがチャップマンスティックを体験している様子や十一さんの生演奏の様子は、京都学生広報部のTwitterから動画で配信しています。そちらもぜひご覧ください!
*動画リンク*
※このリンクから飛べなかった方は、Twitterで#十一で検索してください。
次回は、3人中、2人が京都出身という、良くも悪くも京都を知り尽くしたバンドです!
お楽しみに!
*京都在住音楽アーティスト特集第1弾
Homecomings
(立命館大学 文学部 山下杏子)