【1000年企業インタビュー vol.8】 時代とともに歩みを進める伝統工芸の世界 ~中村ローソク田川広一さんインタビュー~

皆さん、こんにちは!
今回は、京都市が行っている「これからの1000年を紡ぐ企業」という取り組みに選出されている、有限会社中村ローソク(以下、中村ローソク)の社長・田川広一さんにインタビューしてきました。
~これからの1000年を紡ぐ企業認定 魅力発信インタビューとは~
こちらのリンクに詳細が記載されています。ぜひご覧ください!
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日本の伝統工芸「和ろうそく」を代表する老舗の一つで、国内外を問わず人気を集めているのが中村ローソクです。日本の伝統工芸産業がさまざまな問題に直面している中、守られるばかりでなく、時代の変化を取り入れながら常にアップデートし続けている伝統工芸の世界を深掘りしていきます。
もくじ
私たちにとっての伝統産業

皆さんは、伝統産業と聞いてどんなイメージを持ちますか?
私は、身近にあるようで実際には関わることのない、遠い世界のものだというイメージを持っていました。また、「職人」と聞くと、年配の人が黙々と作業をしている姿や、一人前になるまでの長い修行、厳しい上下関係を想像し、決して簡単な世界ではないという印象がありました。古くから変わらず守り抜かれ、これからも変わらないものだと思っていたのです。
しかし、今回のインタビューを通してリアルな「今」の伝統産業について知り、伝統は守られるだけではなく、更新していくものなのだと実感しました。
今回訪問させていただいた中村ローソクは、1887年に創業し、今日まで139年にわたり和ろうそくを作り続けてきました。現在の社長である田川さんは4代目で、もともとは異なる仕事をされていましたが、跡を継ぐことになったそうです。
私が抱いていた厳しく寡黙な職人という印象とは異なり、とてもフレンドリーで、楽しくインタビューをさせていただきました。その一方で、強い信念と時代に合わせた新たな発想を数多く持っておられ、私自身、心が動かされました。
これから中村ローソクを深掘りする上で重要なキーワードとなるのが「和ろうそく」です。皆さんはどのようなものか分かりますか?
和ろうそくは、石油を用いる洋ローソクとは原材料が異なり、純植物性の櫨(はぜ)の実などが使用されています。そのため、環境にも優しいのが特徴です。さらに、炎が大きく安定するため風に強く、消えにくく、最後まで明るく燃えます。また、一本一本が手作業で作られており、伝統的な技術を受け継ぎながら、現代の暮らしにもなじむ新しい価値を秘めている伝統工芸品です。
ここからは、中村ローソクをさらに深掘りしていきます!
伝統産業に必要なのは「やりがい」の可視化?!

「職人になりたいなら、まず稼げるようにならなあかん」
インタビュー中に田川社長から出たこの言葉は、伝統産業に対するイメージを根本から覆すものでした。技術を学ぶ代わりに生活は犠牲にするもの、という価値観がどこか当たり前とされてきたのかもしれません。しかし社長の言葉は、その“当たり前”に疑問を投げかけています。
中村ローソクでは、法人化を機に、社会保険や休日、安定した給与体系を整備し、月給制を導入されました。将来的には高収入も目指せる仕組みづくりを進めるなど、時代のニーズに対応されています。「伝統産業はお金にならない」という固定観念を壊し、“仕事として成立する職人”を実現しようとしている点は、とても画期的でした。
さらに特徴的なのは、「やりがい」を可視化できる点にあります。誰にでもできる仕事ではなく、自分が作ったものが誰かの手に渡り、直接価値を生む。この“手応え”は、自分にしかできないことをしたいと考える人が多い若い世代にとって、大きな魅力になると感じました。
伝統を守り続けるために、仕組みを変える。その姿勢こそが、今の時代の伝統産業に求められているのかもしれません。
新しい価値に転換する発想

しかし課題は、労働環境だけではなく、商品を支える“周辺環境”にもあります。まず、ろうそくの芯や型を作る職人の減少です。これらは専門性が高く、代替が効かないにも関わらず、担い手が減り続けています。
原料である「ハゼの木」の減少も深刻です。木蝋の原料となるハゼは、林業の衰退とともに管理が行き届かなくなり、結果として供給が不安定になっています。
つまり、和ろうそくは今、「作り手」だけでなく、「作れる環境そのもの」が失われつつあります。そうした中、中村ローソクでは「植樹」と「観光」を組み合わせた新たな取り組みを模索しています。自ら植えたハゼの木を観光資源として活用し、単なるものづくりにとどまらず、地域全体を巻き込んだ再生を目指しています。ここには、新しい価値へと転換する発想がありました。
日本人よりも日本に興味を持つ人々

インタビューを通して印象的だったのは、こうした和ろうそくの価値にいち早く気づいているのが、日本ではなく海外であるという点です。
外国からわざわざお店にまで足を運び、さまざまな質問を投げかけてくる人がいると聞き、日本人は和ろうそくの魅力や背景をどれだけ理解しているのだろうかと疑問を持ちました。
「日本人が知らない日本の文化を、海外の人が熱心に学んでいる。このままでは、日本人がバカにされてしまう」
田川社長の言葉には、強い危機感を感じました。自国の文化や伝統工芸品の価値に、日本人自身が気づいていないことのもったいなさを改めて感じました。
では、その価値はどのようにすれば伝わるのでしょうか
中村ローソクの商品を見ると、歴史や背景を語る前に、「かっこいい」「かわいい」といった直感的な感覚をくすぐるものが多くあります。さらに、ワークショップなどの体験を通じて、知識として伝えるのではなく、実際に価値に触れることを大切にされていました。それが結果として、より深い理解へとつながっていくのだと感じました。
時代と共に更新していく伝統産業

中村ローソクは、単なるものづくりを行っているわけではありません。伝統産業の“あり方”そのものを更新し、この分野において先を歩まれている存在だと強く感じました。
労働環境、サプライチェーン、価値の伝え方、そして国境を越えてファンを増やす取組など、さまざまな方法で伝統産業の「和ろうそく」を守りながら、「続けていくための仕組み」を構築されています。
伝統とは、「変えてはいけないもの」「守り続けるもの」というイメージがありました。しかし今回のインタビューを通じて、変わり続けていくことこそが、未来へ伝統をつないでいく最善の方法なのだと感じました。
おわりに
今回は、中村ローソクの田川広一社長にインタビューをしました。一見敷居が高いと感じてしまう伝統工芸の世界を、時代に合わせた新しい取組で守り続けようとする姿勢が、とてもかっこよく感じられました。
和ろうそくをはじめ、日本の大切な伝統文化への関心が一層高まりました。伝統産業に関わる方々は、過去を守るだけでなく、これからも残り続ける未来を創り出そうとされています。その想いが途絶えることのないように、私たちも関心を持ち、商品を手に取っていきたいと思いました。
(取材・文 龍谷大学 政策学部 大神芽吹)

