展覧会担当者に聞く!若者が訪れる【アンディ・ウォーホル・キョウト】の裏側
現在、京都市京セラ美術館にて開催されている、「アンディ・ウォーホル・キョウト」。
日本初公開作品も数多く、テーマソングにmillennium paradeの常田大希さんが楽曲提供している「Mannequin(マネキン)」が使われていることも話題になっています。
京都に住む方は、最近マリリン・モンローの絵を街のあちこちで見かけませんか?
今回は、この展覧会を主催しているソニー・ミュージックエンタテインメントの担当プロデューサー・中村勉さんにインタビュー。
若者を惹きつけるソニー・ミュージックならではの試み、そして「ウォーホル・ウォーキング」など京都の街と連携する取り組みについてお話を伺いました。
普段私たちが知り得ない、展覧会企画の裏側にまつわるエピソードが盛りだくさんで必見です!!
もくじ
ウォーホルが影響を受けた京都で
——アンディ・ウォーホル・キョウトを企画された経緯を教えてください。
我々ソニーミュージックの中で今回の展覧会に携わっている部署は、エンタテインメントのいろんな分野で皆さんのお役に立てることがないかとトライしている部署でして、今回のような展覧会においても新しい提案ができないかと取り組んでおります。アンディ・ウォーホル・キョウトは2022年9月から開催させていただいていますが、もともとは、京都市美術館が「京都市京セラ美術館」としてリニューアルされる2020年の秋開催を予定していたんです。新設された東山キューブで海外アーティストの展覧会の目玉として、“アンディ・ウォーホル展”を開催することで、美術館前館長とお話をまとめさせていただいたのがきっかけでした。
——なぜ“アンディ・ウォーホル”を選ばれたのでしょうか?
今回の展覧会の企画制作でご一緒させて頂いている、京都のイムラアートギャラリーの井村さんからアンディ・ウォーホル展を京都で開催するのはどうかとのご提案を頂いたことがきっかけでした。そこでアメリカのピッツバーグにあるアンディ・ウォーホル美術館に所蔵されている作品群を京都に運んで、展覧会を開催することになりました。
(原栄三郎氏が1974年に撮影したアンディ・ウォーホル)
©原栄三郎 / HARA EIZABURO
——確かにアンディ・ウォーホルの作品はインパクトがありますよね。今回の展覧会の見どころは何ですか?
ひとつは、展覧会名に“キョウト”を入れたことでしょうか。アンディ・ウォーホルの展覧会は世界各地で開催されていますが、アンディ・ウォーホルの展覧会名に街の名称を入れたことで、より京都の街にフォーカスした展覧会と言う打ち出しアピールが出来たことは良かったと思っております。
——というと?
ウォーホルと日本・京都とのゆかりについて調べるうちに、過去2回、1956年(27歳)と1974年(46歳)の時に来日を果たしていて、共に京都を訪れていたということが分かりまして。そのときは単純に「彼は京都で何をしていたんだろう」という話から始まったのですが、ウォーホルが京都で見たもの、興味を持ったものを辿るうちに、彼が日本・京都の文化に触れて影響を受け、作品にも何らかの形で転化していたのではないか、ということがアンディ・ウォーホル美術館の本展のキュレーターのリサーチと合わさる形で見えてきたんです。
そこで、これは京都だけで展覧会の軸を作るのがいいんじゃないかという話に至り、タイトルにも反映したというわけです。タイトルに“キョウト”と入れた以上、展覧会を見に来ていただいた方に「だから京都でやってるのか」と納得していただける展覧会にしようと意識して作ってきました。
(ウォーホルが日本を訪れた際のスケッチや資料が展示されている)
©ANDY WARHOL KYOTO
——これだけ大きなスケールの展覧会を京都単独で開催するのは、かなり大きな決断だったのではないでしょうか?
日本でアンディ・ウォーホル展を立ち上げることなった最初の段階では、京都以外の都市での開催も検討していました。しかしアンディ・ウォーホルの大回顧展としては、2014年に六本木の森美術館にて過去最大規模で開催されていました。我々としては当初2020年に開催する予定でしたので、もし東京でも再び開催するとすれば約6年半ぶりとなります。ただアート業界の方々にお話を聞くと、ウォーホルのようなアーティストの回顧展となると、やはり10年くらいたたないと“久々の開催”との位置付けにはなりにくいのではないかとのご意見もありまして。
——難しいところですね。
それであれば、京都単独開催にすることで、六本木でご覧になった方にとってもまた全然違うウォーホルの展覧会として、しかも京都に行かないと見られない展覧会として、逆に興味を持ってもらえるような展覧会を目指した方が良いのではないか、ということを考えて思い切って京都だけの開催を決めました。ただ準備段階でコロナ禍の状況が拡がり、延期を余儀なくされ、2年遅らせての開催となりまして、その後、色々と大変な面はありましたが、京都での開催は意味のあることだったと思っています。
——京都単独で開催することで逆に魅力が高まるんですね。
また近年は、アンディ・ウォーホルの作品の評価が再燃していることもあって、ウォーホルを知っている、作品を知っている、という方は沢山いらっしゃるんですけど、ウォーホルの作品って実は思った以上に大きいんですね。
普段スマホで見かける作品の写真だけだと中々イメージがわかないんですけれど、実際に見ると「うわ!こんなに作品の1個1個が大きいんだ!」ということをリアルに感じてもらえるのも、いい意味でのギャップだと思っていて。是非、若い人たちも、作品を生で見てもらって何か刺激を受けてもらえればと思っています。
——最近マリリン・モンローの作品が高額で落札されたこともニュースになっていましたね。
アンディ・ウォーホルがアーティストとして世の中に広く知られるようになった時期は1960年代中盤から1970年代前半くらいなんですけれど、キャンベルスープやフラワーのような多くの作品が、グッズのデザイン等を通して、今も皆さんの目に入るアーティストということもあって、ぜひ若い人たちにも見てほしいという気持ちがありました。「私が知っているこの作品、アンディ・ウォーホルっていう人の作品だったんだ」っていう方にも是非ご覧頂きたいと思っています。これだけの作品を一度に見られる機会はなかなかないチャンスだと思うので、京都は日本一学生のいる街ということで学生の皆さまにも見ていただけたらいいなと思っています。
(ポップアートの象徴的作品「キャンベルスープ」)
©ANDY WARHOL KYOTO
テーマソング決定の裏には……
——実際に展覧会に行ってみて、美術展としては私たちと同世代の来場者がかなり多い印象を受けました。
はい、そうなんです。展覧会開催の最初の時期は、きっと既に何らかの形でウォーホルを知っている人達が足を運ばれて、その後にだんだん広がって、最後には若い人たちが興味を持って来て頂けたら嬉しいなと思っていたのですが、なんと初日から沢山の若い人たちに来場して頂くことが出来ました。これは我々にとって嬉しい誤算だったんですけれど、その傾向が会期を通してずっと顕著でして、……我々が思っている以上に、いま観るべきアーティストとして若い人の中でキャッチアップされていたんですね。
——今回は若者に人気のアーティストも展覧会に携わられていますが、ソニーミュージックさんならではの企画ではないでしょうか?
我々は決してアートのプロではないので、その上でエンタテインメントの会社としてやれることを探してアンディ・ウォーホル・キョウトを作ってきました。展覧会のテーマソングを担当したmillennium paradeの常田大希さんは、弊社の所属アーティストなのですが、彼が芸術大学出身で、もちろんアートの分野にも興味を持っているという話は前々から聞いていておりました。そこで、コロナ禍の前に京都でライブがあったタイミングに「なぜ京都でウォーホル展をやりたいのか」という話を彼に聞いてもらえて。この展覧会に興味を持ってくれたのがきっかけでした。
——そんな背景があったとは!
展覧会のテーマソングになっている曲は、millennium paradeのインディーズ時代のアルバムの中の曲でして。「1曲、アンディ・ウォーホルをテーマにした曲があるんですよ」と聞いて「ぜひその曲を展覧会に使わせてください」と言う話になりまして、テーマソングに決まったんです。SNSでもかなりのリアクションがありましたので、「常田さんが曲を作ったアンディ・ウォーホルってどんな人なんだろう?」と、ウォーホルには詳しくないけれど、アーティストを通して若い人たちへのひとつの入り口になったのかなと思っています。
(来場者が触れることのできる体感型アート「銀の雲」)
©ANDY WARHOL KYOTO
——音楽に携わるソニーミュージックさんならではですね。
あと、展覧会のオーディオガイドも所属アーティストである乃木坂46の齋藤飛鳥さんが務めています。作品の音声ガイドは女優・俳優さんが担当されることも多々あると思うんですが、「普段あまり美術館に足を運ばれることがない方々にも観てもらえるきっかけになればいいな」という想いも含めてアーティストを起用させて頂きました。
——音声ガイドをQRコードから無料で聴くことができるのも魅力的だと感じました!
この業界も一気にデジタルシフトを起こしている分野なんです。従来の音声ガイドは、入場チケット代以外に追加料金を払って、会場で実機をレンタルして展示作品の解説を聞きたい人が利用するものです。これもコロナ禍を受けての影響なんですけれど、いわゆる「人が使った・触った物を使いたくない」というお客さんの声がありまして。今回、QRコードからガイドコンテンツを直接ご自分のスマートフォンに取得いただいて、ご自身のイヤホンで聞いていただくスタイルを選んだのはそういった背景があったからです。まだ音声ガイドを無料で提供している展覧会自体は少ないんですけど、だんだんこういったケースも増えていくのではないかと思います。
——コロナによって様々なデジタル化が進んでいるんですね。
さらに、今回は展覧会と同時開催している“ウォーホル・ウォーキング”の各スポットでも音声ガイドをお使いいただけます。美術館の中だけでなく、京都の街全体でアートを楽しんでほしいというコンセプトがありましたので、音声ガイドも展覧会の一部として「展覧会を見に来て頂いた皆さんにお渡したい」ということから無料で配布するスタイルにさせていただきました。
アート鑑賞に音楽を
——今回は音声ガイドで4つの展覧会オリジナル曲を聴くことができますが、これは新たな試みだったのではないでしょうか?
そうですね。音声ガイドを借りる方の比率は来場者全体の約15~20%と言われています。そこで「残りの8割の方は本当に何も必要とされていないのかな?」と考えまして。弊社は音楽の会社でもあるので、「音楽を聴きながらアートを観るのはどうですか?」という提案をしたいと思ったんです。そこでPOST-FAKEというアート系のクリエイターの方々にプロデュースを依頼して、POST-CLASSICAL、AMBIENT、JAZZ、ROCKというジャンル毎にアーティストを選定していただき、楽曲を書き下ろしていただきました。
聴覚と視覚でアートを楽しむという試みは我々ならではの挑戦の部分でした。無料ということもありますが、来場者の半分以上の方がオーディオガイドを体験いただいているとのデータも出ており、これはトライしてとてもよかったと思っておりまして。出来ればこれからも続けていければと思っています。
(日本初展示の作品「最後の晩餐」)
©ANDY WARHOL KYOTO
——贅沢な体験ですよね!反響はいかがでしたか?
NHKの「日曜美術館」という番組でアンディ・ウォーホルを取り上げていただいた際、京セラ美術館を訪れていた人へのインタビューで「美術館に初めて来ました!」と語る若い女性2人がいらっしゃいました。ウォーホルを知っている人はもちろんですが、いわゆる「美術館って敷居が高そうで、行ってみたいし、興味もあるんだけどなかなかね……」という人たちにも来ていただくことも今回の目標でした。
一部のアート業界の方からは「ソニーミュージックが手がけるエンタテインメント的なトライが新しくておもしろい」と言って頂けたり、お越しになられたお客様には、今までとはまた違うウォーホル展が観れたと思ってもらえたら嬉しいですね。また同時に、ウォーホル自身の存在も含めて、彼の作品が時間・時代を越えてある種の普遍的な力を持っているんだなと感じ取ってもらえればと思います。
【NEXT】美術館の外側に目を向けた“京都の街と連携するウォーホル展”
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