インタビュー

想像以上の演技力を|『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』石原立也監督取材(前編)

想像以上の演技力を|『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』石原立也監督取材(前編)
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吹奏楽部の青春を描いた『響け!ユーフォニアム』シリーズが2023年8月4日より新作アニメとして劇場上映中です。新たに部長となった黄前久美子(おうまえくみこ)は、初めての大仕事であるアンサンブルコンテスト――通称“アンコン”を前に忙しい日々を送っていく……。
今回は、最新作『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』(以下、『アンコン編』)劇場上映を記念して、作品の見どころや魅力、作品の秘話などを監督の石原立也(いしはらたつや)さんに伺ってきました。

想像以上の芝居が作品を引き立てるスパイスに

——8月4日に上映が開始される『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』の制作の経緯を教えてください。

『響け!ユーフォニアム』(以下、『ユーフォ』)シリーズの放送は2015年から始まり、2019年に公開された『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』(以下、『誓いのフィナーレ』)は、主人公が高校2年生のときの話です。昨年、TVアニメ『久美子3年生編』も制作することが決まったんですが、放送まで若干間が空いてしまうので、その間にOVAみたいな短めのお話を制作できないか、と話がありました。そこで、今回の『アンコン編』のお話を作ることになり、劇場で上映することが決まったんです。

——今作はどのようなところが魅力ですか?

次のTVアニメ『久美子3年生編』では主人公の黄前久美子が3年生になり、吹奏楽部の部長として活躍するんですが、『アンコン編』はまだ2年生の久美子が代替わりで部長になって最初の大仕事、というところがお話の魅力だと思っています。

——石原監督はアフレコにも参加されているようですが、印象に残っているエピソードはありますか?

僕が参加していて面白いと思ったのは、たまにこちらが想像もしなかったようなお芝居をされることですね。想像通りのお芝居をしていただくと安心感があるのですが、想定外のお芝居でも「あ、それはそれでいいな」と思って、オッケーすることがあります。

主人公・黄前久美子役の黒沢ともよさんのお芝居で、久美子が麗奈(れいな)に抱きつくシーンは、僕が思っていた以上に生き生きしていました。想像以上のお芝居だったので「おー、そんな感じで来たか」と思いながら、アフレコの様子を見ていましたね。その久美子の様子は、実際に見てもらったら「あ、ここのことか」とわかると思います。

——楽しみにしています。今回、『アンコン編』は『誓いのフィナーレ』の続きだとおっしゃっていましたが、注目してほしいキャラクターはいますか?

やっぱり、今回の影の主役である釜屋(かまや)つばめですかね。マリンバという楽器を担当するパーカッションの女の子です。今回は彼女がとても目立っているので、ぜひ注目してほしいですね。

でも、こうして長いことやっていると、どのキャラクターにも情が移ってきて、久美子はまるで自分自身であるかのような気がしています。奏(かなで)とかは、やっぱりちょっと可愛く描きたいなとか思うんですよ。今回はそんなに重要な働きをするキャラではないんですが、彼女の動きはちょっと可愛くできたかなと思っているので、少し注目していただきたいところですね。愛着のあるキャラクターだと、ちょっと細かい芝居をつけたくなっちゃうんですよ。

3年生の傘木希美(かさきのぞみ)は今回、部活を引退して、アンサンブルコンテストを手伝う形で登場するんですが、動きとか、気に入っているカットがあるので、探してみてください。やっぱり、希美とか優子(ゆうこ)とか、3年生にはお世話になったので、そろそろいなくなるんだなと思うと、原画をチェックしながらなんか寂しい気持ちになりますね。

でも、新しいキャラクターには新鮮味があっていいですね。『久美子3年生編』の制作では、新しい1年生のキャラクターもとても可愛いと思って描いています。

——作品全体を通して石原監督自身が気に入っているキャラはいるのでしょうか?

……そうですね。監督はこのキャラが好きっていうのはなかなか言いづらいんです。

でも、優子というキャラクターは、第1期ではどちらかというと悪役をやっていて、僕自身、それをとても申し訳なく思っていたんです。その分、第2期や『誓いのフィナーレ』で頑張ってくれたから良かったと思っているんですけど。そういった意味で、優子は割と愛着のあるキャラクターですね。あと川島緑輝(かわしまサファイア)は原作でも好きなセリフが多くて、とてもいいキャラだなと思っています。

宇治に『ユーフォ』シリーズの原点あり

——『ユーフォ』シリーズは原作小説からどうやってアニメ化したのでしょうか?

アニメーション制作というのは、最初は誰かが言い出すんです。「これをやりましょう」って。今作は、京都アニメーション内で原作小説をぜひアニメ化したいという話があがり、原作の宝島社様へアプローチをするところから始まりました。企画が始まって、“GO”が出ると、シナリオ作りに入っていきます。

ただ『ユーフォ』シリーズの場合、TVアニメ第1期を作る段階では原作が1冊しかなかったんです。それだとTVシリーズ1クール分(約12話)にするには若干少ないんです。だから、『ユーフォ』第1期は結構オリジナル要素が多くなっています。分かりやすいところでは、麗奈が裏山でトランペットを吹くシーンとか、「チューバくん」というキャラクターなどですね。

それと、この原作は吹奏楽に詳しい人ならわりとスムーズに理解できる内容だと思いますが、吹奏楽に詳しくない人だとわからないことが多いんですよ。「ダメ金」(ゴールド金賞を受賞したが、代表には選ばれないこと)とかも、最初は何のことだかわからないじゃないですか。

——そうですね。

葉月というキャラクターは吹奏楽初心者だったので、視聴者目線で吹奏楽の説明をさせやすいキャラでしたね。そうやって原作をアニメ用に再構成したり、足りない部分は足したりする作業が必要なんです。

——アニメと原作を見比べると二度おいしいわけですね。

あと、やっぱり1話1話に見せ場や山場がないとダメなんですね。ですから、各話にエピソードを配置していって各話のシナリオを書くのが、シリーズ構成やシナリオの大きなお仕事です。

——『ユーフォ』は小説が原作ですよね。絵コンテを描く際、構図はどうやって考えるんですか?

絵コンテはいわゆる“全体の設計図”ですね。大体のお話の流れとか、絵作り、カメラワークとか。見た目はネームのような、ちょっとした粗めの漫画のようなものがアニメーションにも必要になります。

その点で、宇治が舞台というのは、かなり助かっているんですよ。すぐ取材に行けるので、現場へ行って、この辺でこんなことをさせようとか、イメージを膨らませています。僕は写真を撮るのも好きなので、現場へ行ってすぐに写真を撮ったり、ポーズはそのまんま、写真を参考に使ったりして、構図を考えます。

あとは映画って、構図の方程式みたいなものがあると思っていて、それを参考にしています。でもね、全く浮かばないこともあるんです。ちょっと安易に流れを考えすぎたとき、もうちょっと深く掘った方が良かったな、などと思いますね。

——『ユーフォ』は吹奏楽がテーマのアニメということで、作中の音楽や演奏シーンに力が入っていると感じるのですが、どのように制作しているのでしょうか?

『ユーフォ』の演奏シーンは、実際の演奏の様子を動画撮影させていただいて、それを元に作っていますね。『アンコン編』は劇場で上映するということで、やっぱり劇場で聴く音は、テレビやパソコンとかのスピーカーとは全然違うと思うんですよ。今回も少ないながらも演奏シーンがあるので、ぜひ映画館で観てほしいと思います。

石原監督が思う『ユーフォ』シリーズの好きな場所とは

——『ユーフォ』シリーズは宇治が舞台ということで、宇治にはたくさんの「舞台」がありますが、石原監督がいちばん好きな場所はどこですか?

ちょっと月並みかもしれませんが、久美子がよく座っているベンチはやっぱり思い出に残っていますね。別にそんなに重要なポイントとして作るつもりはなかったんですけどね。

あと、北宇治高校として参考にさせてもらっている学校は、やや山の高いところにあって眺めがいいので、お気に入りです。土地勘があったりすると、もう学校から分かるんですよ。あの辺りが太陽が丘で、 宇治市役所も見えますし、京滋バイパスが通っていて、久御山ジャンクションも学校から見えるので、とても眺めがいいですね。

——眺めがいいといえば、大吉山(だいきちやま)からの景色もいいですよね。ファンの方もよく登っているようです


(作中で登場する大吉山は聖地巡礼スポットになっている)

大吉山は15分ぐらいで登れますよね。僕が以前、春頃に登ったときはおじいさんが座っていらして、両手を広げて小鳥に餌をやっていたんですよ。まるで極楽の仙人が小鳥に餌をやっているように見えて、ちょっとファンタスティックな光景でした(笑)。

——(ベンチについて)ロケ参考地はどうやって選んでいるんですか?

あのベンチはほんとにたまたまで、最初はあんなに大活躍させるつもりはなかったんですよ。第1期の第1話で久美子と塚本秀一(つかもとしゅういち)が会話をするシーンがあるんですけど、その場所としてベンチに座らせたのがきっかけで、それからちょくちょく座らせるようになったっていう感じです。

僕の経験では、狙ってやったものはあまり定着しないような感じがします。でも、やっぱり取材するときはなるべくちょっと良い場所を選ぼうと思っていますね。

最後に

前編では、主に『響け!ユーフォニアム』について、新作アニメ映画のことからTVアニメのことまでさまざまなお話を詳しく聞かせていただきました。

後編では、石原監督ご自身のことについてより深く掘り下げてお聞きしているので、ぜひお楽しみください!

 

前回、『響け!ユーフォニアム』の作者、武田綾乃さんにインタビューした記事はこちら。

 

(取材・執筆:立命館大学 文学部 吉田玲音)
(取材:同志社大学 グローバル地域文化学部 西村彩恵)
(取材・執筆協力:同志社大学 文学部 井本真悠子)
(撮影・執筆協力:立命館大学 文学部 小関萌嘉)

この記事を書いた学生

吉田玲音

吉田玲音

立命館大学 文学部

リアルでうるさすぎてブログ越しで声が届きそう。