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『甘神さんちの縁結び』の作者・内藤マーシー先生が語る、京都の魅力

みなさんは京都と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。和菓子やお茶などの名産品を思い浮かべる方もいれば、清水寺や下賀茂神社をはじめとした神社仏閣や京都タワーなど特定の場所を思い浮かべる方もいるでしょう。

今回は京都をモデルにしたラブコメ漫画『甘神さんちの縁結び』の作者である内藤マーシー先生にお話を伺うことができました!
キャラクターの成り立ちなど作品に関することだけではなく、内藤マーシー先生ご自身のこともたくさん語っていただきましたのでぜひご覧ください。

内藤マーシー先生 プロフィール

京都府南丹市出身の漫画家
2013年 京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)を卒業
2017年『芸術せんせいしょん!』で第99回週刊少年マガジン新人漫画賞佳作を受賞
2020年12月 週刊少年マガジンに京都を舞台にした『甘神さんちの縁結び』の読み切り版が掲載
2021年4月より同誌にて『甘神さんちの縁結び』を連載中

Twitter:@marcey_naito

京都という慣れ親しんだ“舞台”


(京都タワー)

——『甘神さんちの縁結び』は“京都”が舞台の漫画ですが、どうして京都を舞台にしたラブコメを描こうと思ったのですか?構想の発端を教えていただきたいです。

これはもう、ズバリ僕が京都出身で“慣れ親しんだ土地だから”というところから始まっていますね。
漫画に限らず作家さんが作品の舞台を決めるときに、やはり自身の故郷とか生活してきた土地が一番イメージしやすくて参考にされることが多いと思うんです。

僕の場合もまずは“京都”を舞台にしたラブコメの漫画を考えよう、というところから始まりました。
京都といえば伝統的な街として神社やお寺が多く、観光地でもあります。神社といえば巫女さんがいるな、巫女さんだったらラブコメとしても可愛いヒロインを描けそうだな、と結構シンプルにテンポよく決まっていった感じですね。

——やはり出身地の存在は大きいのですね。では実際に京都で生活をしていたことが『甘神さんちの縁結び』の作風などに影響したことなどはありますか。

そうですね、改めて考えたときに無意識に影響されているところではあるんですけれど、描いているキャラクターたちの街の歩き方というのが、実際に自分が友達と一緒に遊んだ場所とつながっているんですよね(笑)。
例えば、「買い物にいこう」というエピソードがあったら、三条京阪に集まった後四条河原町に行って、寺町の商店街に行ってブラブラする。こんな感じで自然とコースを思い浮かべることが出来るのは実際に京都で生活してきたからこそだな、と思います。

それから、これはちゃんと作品の中で描けているわけではないんですけど、京都は観光地なのでお客さんがいっぱいいるんですよね。でも、自分は京都生まれでお客さんではないので金閣寺や清水寺などの観光スポットにはあんまり行ったことがないな……と。そういった京都に来る観光客と実際に京都に長年住んでいる人の感性の違いは、今後漫画の中の登場人物たちにも落とし込んで描かれていくのかなあと考えています。

——確かに生まれた街の観光名所にはいつでも行けると思って、逆に行かないというのはあるあるですよね。

三姉妹はどのように生み出されていったのか

—次に、三姉妹のキャラ設定についてお伺いします。メインヒロインである夜重(やえ)、夕奈(ゆな)、朝姫(あさひ)はしっかり描き分けられている印象があるのですがこの3人はどのように決まっていったのでしょうか?

まず一番大きいところでいうと、ヒロインが神社の巫女さんになるので、“三姉妹の巫女さんは神様を信じている”ということが前提としてあって、その対立として“主人公は神様を信じない”という構造を軸にしました。

そこから、主人公と一番最初にぶつかる次女の夕奈は“ちょっと堅物で頑固なツンデレ”にしよう、と。そうすれば主人公とバチバチしてくれるかな、というところをまずは基盤にして、そのギャップとして夕奈には“実はロマンチストっぽいところもある”というようにキャラクター設定を上乗せしていきましたね。
そして真ん中の次女がツンデレだったら、そのお姉ちゃんである長女は“おっとりした性格なんだけど子供っぽいところもある”であれば可愛いな、ということで夜重というお姉ちゃんが誕生しました。
最後に三女は、“末っ子”が持つ甘え上手なイメージを元に、ギャップなどを見せたりして三姉妹がバランスよくなるように朝姫というキャラクターが出来上がったという感じですね。

——夕奈、夜重、朝姫の順番でキャラが出来上がっていったんですね。
そうですね。最初から三姉妹のうちの誰かを主人公と同い年にしてその子を主人公とぶつかるようにしようと思っていたので、そういう意味では真ん中の夕奈を基準に考えていったところはありますね。

年齢もバラバラにして、その年齢に合わせた楽しい見せ方というのを考えていました。事情があって一つ屋根の下にいるからこそ、年の差がある女の子たちとの関係性も作れるかなと。

——『甘神さんちの縁結び』を描いていて一番楽しいキャラは誰ですか?また、逆に描くのが難しいキャラ(デザイン・心情面)などあれば教えてください。
一番楽しいのは主人公の瓜生(うりゅう)くんですね。
瓜生くんは可愛い女の子に囲まれてあたふたするような姿のほかに、たまにはかっこいい姿を見せるのですが、僕が男というのもあるでしょうけど一番親近感が湧くんですよね。女の子にこういうことされたらついこうなっちゃうよな、みたいなところを自分でもニヤニヤしながら描いていますね。そういう意味でも瓜生くんが一番楽しいです。

逆に難しいのは、間違いなくヒロインである三姉妹全員ですね。やっぱりラブコメの作品なので“女の子が一番可愛くなくてはいけない”という責任といいますか……表情や行動の一挙手一投足を繊細に扱わなければいけないというところが難しいですね。もちろんそのヒロインがどんな行動・発言・表情をするのかというのは楽しいんですけれどね。毎度毎度悩みつつ、気を遣って描いています。

——確かに読者が理想とするヒロインを描くのは難しいですよね。キャラの言動が食い違ったりすると読者もあれ?と読みながら疑問を感じてしまいますし。
そのとおりで、読者の方もやっぱり主人公と同じ目線でヒロインたちを見てくれているので、なおさら描き方には気を遣いますね。

——三姉妹を描くときの難しさに差はありますか?
三姉妹とも同じぐらいです(笑)。三姉妹が難しいからこそ瓜生くんが楽しいのかもしれませんね。

京都で過ごした”学生生活”

——それでは内藤マーシー先生ご自身の話を伺いたいと思います。内藤マーシー先生は京都出身で、京都芸術大学(旧名称 京都造形芸術大学)に通われていたとのことですが、どんな学生でどのように生活なさっていたのかというのを教えていただきたいです。

たぶん遊ぶことしかしてなかったんじゃないかな(笑)。
一応芸大ではあるので色んなイベントがあったり芸術大学ならではの専門的な授業・課題もあったりしたと思うんです。でも、何か将来に向けての明確なビジョンはなく、サークルも入ってなかったので、ただただ毎日授業があって友達と集まって、楽しいことやってたって感じでしたね。
大学生になって仲が良くなった友達とずっと一緒にゲームしたり、一乗寺のラーメン街に行ったり、カラオケしたり……。

——当時は下宿していたのですか?
実家から通っていました。通学に1時間かかってしまうぐらいの距離のところにあったんですけど、まあ通えるかな、ぐらい。
朝が早いのが嫌で、だんだん午前中の授業を取らなくなったりとか。大学生らしい大学生だったような気がします。

——内藤マーシー先生は京都芸術大学をどのような理由で選んだのですか?
正直絵が描けるならどこでも良かった、というのはありました。京都の大学のオープンキャンパスに行ったりしたんですけど、その中で一番楽しそうだったのが京都芸術大学だったのでそこを受験しようと思いましたね。

——オープンキャンパスを実際に見て、雰囲気で選んだんですね。
そうですね。そこでやっぱり“どこが一番楽しいか”で決めました。
特に京都から出たいとか東京に行きたいとかは考えていませんでしたね。高校も芸術系の学科のある高校だったんですけど、高校を選ぶときも“絵が描ける”というのを重視していたので、大学のときも似た感じになりました。

——絵を描くことが好きなことがよく伝わってきます(笑)。
絵は本当に小さい頃から描いていたので(笑)。
特に将来どうなりたいというのがあったわけではないのですが、単純に学校の勉強よりも自分の好きなことである“絵を描く”方を選んで進んできました。絵が好きだったから今、この道にいるのかなとは思います。

遊び半分から『プロ』の道へ

——それでは漫画家を目指そうと思ったきっかけもやはり、先程話されていたように “絵を描くのが好き”ということが大きいんですか?
そうですね……きっかけ自体はそれこそ小さい頃から絵を描いてきたので、いろんな絵を描く仕事の選択肢が自分の中にあって、その中の1つが漫画家でした。
漫画家も楽しそうだし、なれたらいいなと思っていたのですが、思っているだけでそれに対する努力は大学入ってからも何一つやっていませんでしたね。本当に遊び半分で気持ちもそんな真剣ではなく、“漫画家もいいな”というぐらいで大学を出たあと会社員としてゲーム会社に就職したんです。そこで絵を描く仕事に就けたので、普通に楽しい社会人生活が送れていました。その仕事が一区切りついた頃、プライベートな時間に遊び半分で漫画をちまちまと描いていたんですね。
この漫画が出来上がったときに、今もお世話になっているマガジンの新人賞に応募してみたんですよ。そこで初めて小さい賞ではあったのですが受賞しまして、編集部の方から電話がかかってきて自分の担当さんがつきました。

ずっと一人で遊び半分で書いていたものが他の人が関わってくださることになったのもあったのか、その時初めて遊びじゃなくてプロとして頑張ってみようと踏み込んだ、といった感じですね。

初連載の新人だからこそのこだわり

——内藤マーシー先生が漫画を描く中で、一番こだわっている部分はどのようなところでしょうか?
今の自分の立場だからというこだわりにはなるんですけど、単行本の表紙と見開きの見せ場のシーンの絵に一番力を入れてこだわっていますね。
『甘神さんちの縁結び』が僕の初連載であり、漫画家としてド新人で知名度が全くないので、大先輩の大人気作品だらけのマガジンの中で自分の作品を読者の方に見てもらうにはやはり絵を見てもらって興味を持ってもらうしかないんですね。
だから、マガジンをパラパラめくったときに目に留まるように見せ場のシーンをしっかり描き込んだりだとか、本屋さんに立ち寄った僕のことを全然知らない人が、表紙を見たときに「面白そうだな」と手に持ってもらえるように色々工夫をしています。

——確かに「表紙買い(ジャケ買い)」という言葉もありますもんね。
そうですね。自分が“新人”という立場だからこそ、そういうところをしっかり心がけようっていうことが今こだわっている部分になりますね。

不思議な世界観が自然と成り立つ“京都”

——内藤マーシー先生の思う京都の魅力はどんなところですか。
京都は現実に存在する場所ではあるんですけれど、どこかファンタジーな部分があるといいますか、“ファンタジーとの親和性が高い”というところが個人的に魅力だと思っています。妖怪が出てきても不思議じゃないといいますか、実際に京都が舞台で妖怪が出てくるような作品はいっぱいありますよね。そういう不思議なことが世界観として自然に成立している点が面白いと思います。この漫画でもそういうのに影響されてちょっと不思議な現象が起こったりするんですけど、それも京都だからこそ取り入れられたっていう部分はあります。

——実際に京都には各地の神社などにいろんな逸話や伝説が残っていますよね。
そうですね、京都には何があってもおかしくないと思える不思議な魅力がある街だと思います。

——京都出身の内藤マーシー先生から見て夏の京都のおすすめやお気に入りの場所があれば教えていただきたいです。
これから夏真っ盛りですもんね。変わったところで川床ですかね。川のそばで川を見ながら涼んだり美味しいものを食べたりできる場所なんですけど、個人的には京都っぽいなと思っています。
鴨川の付近には居酒屋などが川に面して並んでいますし、確か河原町三条のスターバックスコーヒーは鴨川の方にテラスがあって、涼みながらフラペチーノを飲めるみたいですね。あと、例えば貴船神社でいうと、本当に川の上に床があって、そこで京都の料理を食べられるので京都を味わうという点ではおすすめだと思います。京都の夏は結構蒸し暑くなってしまうんですけど川床は涼めるので、僕も夏に京都に帰る機会があればぜひ行きたいなと思っていますね。

——最後に漫画家を目指す中高大学生に向けてアドバイスをお願いします。
アドバイスですか……(笑)。
これは当時の自分に言いたいことでもあるんですけど、やっぱり漫画家になりたいんだったらとにかく描くことですかね。形にして完成させることだと思います。自分自身、学生のときに漫画とかを1つ完成させられていたらもう少しデビューが早かったかもしれないな、と今になって思いますね。技術が足りてないからとか、いろんな理由をつけて描かないことがあると思うんですけど、下手でもなんでもいいのでとにかく描いて完成させて、それを誰かに見せるということが本当に大事かなと思います。

さいごに

京都を舞台に作品を描いている内藤マーシー先生から見た京都の魅力など、たくさんのお話を伺うことができました。
インタビューを終えて、京都の持つ不思議な魅力というのを改めて認識しました。
最後まで読んでくださりありがとうございました。

(立命館大学 産業社会学部 細田大和)
(画像提供:株式会社講談社)

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