【夏目真悟監督に聞く】『四畳半タイムマシンブルース』制作の裏側
もくじ
はじめに
TVアニメ「四畳半神話大系」の放送から12年。「四畳半神話大系」と「サマータイムマシン・ブルース」が悪魔的融合を遂げた森見登美彦による小説「四畳半タイムマシンブルース」がアニメ化。ディズニープラスで独占配信中(配信限定エピソード含む全6話)、9月30日より3週間限定で全国の劇場で公開されます。
今回は、『四畳半タイムマシンブルース』の夏目真悟監督にインタビューしました。
作品の魅力についてはもちろん、アニメーター、アニメ監督という仕事の魅力や京都との繋がりなども語っていただきました。
夏目真悟監督 プロフィール
青森県出身。ゲーム会社のグラフィッカーからアニメーターに転身した後、J.C.STAFF、ゴンゾ、シンエイ動画、フリーのアニメーターを経て、2014年TVアニメ「スペース☆ダンディ」で監督デビュー。
主な監督作品に「ワンパンマン」「Sonny Boy」。
「四畳半神話大系」では、第6話の絵コンテ・演出を、『夜は短し歩けよ乙女』では、夏パートの絵コンテを担当。
12年ぶりの「四畳半」シリーズ
——監督に決まった時はどういったお気持ちでしたか。
元々、『四畳半タイムマシンブルース』の原作本が出ていることを知らなかったんです。知り合いのアニメスタジオの方からすすめていただいて、本を読んでみるとめちゃくちゃ面白かったんです。アニメのスタッフとして参加していた「四畳半神話大系」の森見登美彦さんの原作も好きでした。今回誘いをいただいたときにすごく懐かしい気持ちになり「これ絶対やりたい!」と思いました。とても嬉しかったですね。
——「四畳半神話大系」では、絵コンテ、演出、原画を担当されていましたが、今作で登場人物や作品への印象の変化はありますか。
変わりましたね。やっぱり12年経っているので。自分の生活環境や立場が変わってきたのもその理由の1つかと思います。
それに森見さん自身が「四畳半神話大系」の時と今回の「四畳半タイムマシンブルース」で意図的に変えた部分もあると思います。森見さんのインタビュー記事や本を見ても、自分の書き方のスタイルや書きたいものを変えて原稿を書いているとおっしゃっていました。
自分は「四畳半神話大系」のドライでクールな感じがすごく好きで。初めはその方向性で考えていたのですが、原作の本を読んでいるともう少しウェットな作品にしたいと思うようになりました。
あと、「四畳半神話大系」の頃はまだ自分が若手で、テレビアニメでの演出が初めてだったこともあり、あまり周りを見ずに自分のしたいことをしていたんです。今は40歳で大人になったので、周りを見てバランスをとらないといけないな、と思いながらやっています(笑)。
「私」と明石さんの恋の行方はいかに……?
——注目してほしいポイントはありますか。
「四畳半」の登場人物のコミカルな群像劇が繰り広げられている部分に注目してもらいたいです。
時間も行ったり来たりして、タイムサスペンス的な要素もあり、複雑なストーリーなんです。でも、そうした複雑な部分を理解しようとするのではなく、まずは感じるままに見てもらえたらと思います。
作品の作り方も「事件が起こった。ここは危機的な場面。ここで少し転調があり、ここは少し良いところ。」と分かりやすくシーンごとで区切って、辻褄をきっちり追えなくても楽しめるものを作ったつもりです。あまり肩肘張らず、1回で理解しようとは思わずに。自分も未だに理解しているかは怪しいので(笑)。作った人がそんな感じなので、気軽に見てもらえたらと思います。
また、「四畳半神話大系」では、「私」と小津(おづ)の関係性が強かったのですが、今回は「私」と明石(あかし)さんにスポットが当たっています。2人の“恋の行方”という青春っぽい見所もありますし。「私」が明石さんに近づくべく、右往左往する様子を見ていただけたらなと思います。
——「私」と明石さんの関係性が今までと少し変化する場面があると伺いましたが。
2人の関係性が変わる場面が1番の転機だと思い、その場面を区切りにエピローグに入っていくと考えました。そこで、「私」の感情をそこに向けて計算して作っていきました。
また、タイムトラベルによって時系列が逆転してしまって、明石さんの状況が複雑なんです。そこは物事の起こった順番に音声を録っていくことで、明石さんの感情の流れがスムーズに乗るようにしました。
やはり声は生モノなので、声にまで雰囲気が出ると思って録っています。そうした心の機微が少しでも乗っかればいいなと思って。
——小説では表せない表現方法ですよね。他にもキャラクターの演出をする上で気をつけたことはありますか。
映像の演出でもキャラクターの感情はどこまででも掘り下げようがあるので、何も制限のない状態で映像を作ると、伝えようとすることが散漫になってしまうんですよ。「あれもいい、これもいい」って……。
今回、「私」の感情に焦点を当てて、意図的に内容を狭めたことによって伝えやすくなったと思っています。
『四畳半タイムマシンブルース』の絵コンテ
(樋口師匠に弟子入りすることで、明石さんと距離を縮められるのではないかと内心浮かれるが踏みとどまる「私」)
想定の斜め上をいく、小津役 吉野さんの演技
——小津は一貫して「私」の邪魔をするなど暗躍が目立ちましたが、小津に関しては演出での工夫はありますか。
小津に関しては極力イメージを用いた表現をしました。影がいきなり悪魔になるなど、視覚的に分かりやすい小津らしさを表現するようにしました。こういった表現は「四畳半」の世界観でないと成立しないと思います。
——小津の演じ方について声優の吉野裕行さんにお伝えしたことはありますか。
小津役の吉野さんはとても面白い役者さんで。まず、めちゃくちゃ演技が上手なんです。日本のアニメは事前に打ち合わせはしないで、渡された台本をもとに声優さんが自分で演技プランをたてています。良い声優さんほど本を読む力があり、キャラクターの本質を外さない。
小津というトリッキーなキャラも、自分が想定していた斜め上をいくような演技プランをたててきてくれて。小津をより小津らしく演じてくれています。
テレビシリーズの時でも小津は突っ走っていて……。「私」役の浅沼さんはモノローグが大変そうだなと思っていたけど、小津は伸び伸び演じていて「あっ、こういう演技の広げ方があるんだな」とすごく勉強になりましたね。
——吉野さんの演技について印象的なシーンがあれば教えてください。
例えば、リモコンのお通夜をしているシーンですかね。羽貫(はぬき)さんや「私」も退屈そうに「何やっているんだろう」と思いながら付き合っているんです。小津は悲しむ樋口(ひぐち)師匠に合わせてちょっと泣き演技をしているんじゃないかな、と思って泣く絵を描いたんですけど、吉野さんはそこで嗚咽をするほどの泣く演技で(笑)。私は想定していなかったけど、「確かに小津ならここまでやるな」と思いました。そういったアドリブが上手な役者さんなので、アフレコをするたびに面白いと思っていました。
音楽が入って初めて作品として成立
——音楽について、主題歌の「出町柳パラレルユニバース」が印象深いイメージでしたが、何か監督の意向はお伝えしたのですか。
ほぼほぼなく、本当にお任せでした。アーティストさんは文字を音楽にすることに長けている方たちなので、そこはお任せしようと思って。物事を感じる力、感受性がすごく強い方達なんだと思います。私が細かく話さずとも、自分がやりたいことをざっと羅列して伝えると本質をちゃんと突いた作品に仕上げてくれる。その上で、そのバンドとしてのオリジナリティもあるというのはやっぱりすごいと思います。
不思議なことに、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)さんの曲が挿入されて初めてその作品が完成するように感じる。それだけの力をもっているというのが流石だなと思い、感動しました。
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