インタビュー

和菓子に物語を込めてー『であいもん』原作者・浅野りんインタビュー

和菓子に物語を込めてー『であいもん』原作者・浅野りんインタビュー
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みなさん、和菓子は好きですか?漫画は好きですか?
実は筆者、小さい頃に祖母の作った紫陽花の上生菓子を見て、和菓子に一目惚れ。その日から小学校で支給される粘土を使って、見よう見まねで和菓子や飴細工を作ったりしたほど、和菓子が大好きです。
さらに、小さい頃から絵を描くことが大好きで漫画家を目指していた時期もありました。

今回、念願叶って漫画『であいもん』の作者、浅野りん先生にオンライン上でインタビューを行いました!

京都を舞台に和菓子と家族、そして「人と人との絆」を描いた漫画『であいもん』。
読んでいると思わず京都に行きたくなる、和菓子に興味が出てくる、そんな作品を手がけた先生にたくさんのことをお伺いしました!

浅野りん先生 プロフィール

であいもん 浅野りん先生

京都府出身の漫画家。
短期大学在学時に漫画家デビュー。
2016年からKADOKAWA「ヤングエース」にて『であいもん』の連載を開始。
2022年4月よりアニメが放送を開始。

漫画というアプローチから和菓子を

——漫画『であいもん』の“和菓子”と“京都”という構想の発端は何ですか?
『であいもん』のひとつ前に執筆していた作品が京都を舞台にしていました。新連載を考えるにあたって、担当さんに「京都を舞台にした物語を考えていただけないか」という提案を頂いたのが最初です。今まで少年漫画を描いてきていて、セリフは標準語で書いていたんですけど、自分が京都出身ということもあり、京言葉だったらより素直に書けるなというのが前作でもわかったので、素直に京都を舞台に何か作品を作ろうと打ち合わせが始まりました。

それで、担当さんに「京都って何がありますか?」と質問をされて、自分の興味のある寺社仏閣、パン、喫茶店、コーヒー、和菓子……と挙げていったら、和菓子に食いついてきはって(笑)。内心「困ったな」と(笑)。京菓子の世界をスタート地点にするには少し難しすぎるんじゃないかなというのが自分の中でありまして……。

なぜかと言うと京菓子って京都の和菓子ではあるのだけれども、あまり和菓子を食べる機会が少ないのかなと。食べたことがあるって言ったら、祖父母や親戚からいただいてそれをお裾分けしてもらって……という、私自身それくらいの機会しかないなと思っていたんです。
でもそこでふと、今の若い方々も、あまり和菓子を知らないんじゃないかなと。そこから、逆に自分の知らない視点から和菓子を描いていくと、知らない視点での物語を書けるんじゃないかなと思い、勉強がてらやってみようかな、というのがスタートでした。

——和菓子ってすごく魅力的ですけど難しいという側面もありますよね
そうですよね。色々調べていくとみんな和菓子を知らない訳ではなくて、食べたこともあるし、京都に住んでいると6月30日には夏越祓(なごしのはらえ)で水無月を食べるし、お祝い事には紅白饅頭を食べるし……。よくよく考えると節々でみんな和菓子を食べているなということに気が付いたんです。お誕生日やお土産でいただく洋菓子とは違って、和菓子は歳時期の中で口にすることがあったり、お店で季節を感じる和菓子が出ているんだと思ったりして。そう考えるとすごく生活に密着しているなあと思います。

——確かに『であいもん』でも和菓子は生活に密着しているなと感じます。
ふとお店に立ち寄ると、色々な和菓子屋さんがお店ごとにテーマに沿ったさまざまな和菓子を出してはるんですよね。春には桜の和菓子だったり、7月には七夕の和菓子だったり……。あまり足を運んでなかったら、分からないことも多いですよね。
先日「和菓子離れ」がSNSのトレンドに上がっていたんですけど、もう何年も前から若い方が自分から和菓子を買いに行くことが少なくなってきたんですよね。「和菓子が好き」と言ってくださる方もいらっしゃるんですけど、知らない方も多い。そこで漫画というアプローチから、こういう和菓子もあるんだなと知ってもらえたら有り難いなという思いもあって、構想を練ろうと思いました。

であいもん 浅野りん先生
『であいもん』コラボの和菓子

——漫画の中でも登場人物である和さんや一果ちゃんがそれぞれ和菓子について説明してくれていて、和菓子の知識がついて、漫画を通して自分の好きが広がっていくなと感じています。
ありがとうございます!
そう言っていただけると嬉しいです。

『であいもん』アニメ化について

——アニメ化が決まった時はどうでしたか?その時の感想をお聞きしたいです。
アニメ化が決まったときは「大丈夫か!?」と思った部分もありました。
派手な話ではないし、敵が出てきて戦う話でもない。ただ日常を淡々と季節に合わせて描いている作品で、その中で人間関係や、主人公である一果の抱えている問題は物語を作る上で必要であるので、一つのテーマとしては描いています。ですが、和菓子をアニメで描くということに対して、どういう風に視聴者に受け入れられるのかなという不安はありました。
でも作品が映像になって、テレビに映る。自分の作品がそもそもアニメになるということ自体、作家人生での憧れだったので素直に嬉しかったです。

——では、第1話を見たときはもう嬉しかったという気持ちですよね。
もう嬉しかったですし、自分の作品なんですけど、自分の書いたセリフを目の前で誰かに言われることってめちゃくちゃ恥ずかしいんですよ(笑)。自分の考えをセリフにして書いているのもあるし、キャラクターになりきって物語を作っているので、書いているセリフが誰かの口から発せられたりしたら、改めて何か突きつけられている感じがして。あー!恥ずかしい……!ってなってしまって(笑)。
第1話を見た時もテレビ画面からセリフが流れてきていることが恥ずかしい!というのもあったんですけれど、第三者的な見方をしているというか、自分の作品を客観的にみることができているなと思ったこともあって、新たな発見をさせていただいたなと。勉強させてもらっているなという気がします。

アニメ『であいもん』第1話「和と一果」から。

——先生はアニメのアフレコにオンラインで毎回参加されていたとお聞きました。それはどうでしたか?
いただいた脚本を見ながらセリフを聞かせていただくんですけれども、それ自体緊張してしまって(笑)。毎回参加させていただいて、やっぱり京言葉の発音に関して色々心配事があったりされたと思うので、(声優さんから)教えてください!ということもよくありました。なかなか難しかったんですけど、それ自体も一つの経験で楽しかったなあという気持ちです。

ネイティブの京言葉は流れるような感じなんですけれども、どうしても意見を求められるとイントネーションがコテコテになってしまって。やっぱりネイティブの喋り方というのは、染み付いたものがあるので、どうしても伝えるのが難しいなと思うところはありますね。

たった1つの言葉でも難しくて、それだけで10分とか20分とか練習していただいたこともあったので。体力的にも時間的にもぎりぎりやったと思います。
ただ話数を重ねるごとに声優さんたちの京言葉への習得力の高さ見られたりして、「今の所はすごく自然に聞こえました」と思うシーンが増えてびっくりしました!

キャラクターと和菓子

——キャラクターについてもお聞きしたいのですが、キャラクターの設定やイメージはどうやって決めましたか?
私の場合は、ストーリーをある程度こういう形だなというのが大まかに決まったら、そこからどういうキャラクターを作っていくかということに対して、まず1つのイラスト(キャラクターデザイン)から入ります。

イラストが出来上がったら、そのキャラから感じられる性格や設定を物語を作るように描いていきます。そして、その中でこういうふうに描いたのなら、次はこうかな、このキャラクターはどうしてこういう性格になったんだろうというのをそのキャラクターの背景を付け足し付け足ししながら完成させていくという形になります。

設定は最初に考えて担当さんに見せるんですけれども、結局物語の1話目を描いた時にキャラクター同士の掛け合いで物語は進んでいくんです。物語が進んでいくにつれて、どんどん練り固まっていって、キャラクターも一緒に成長していくようなイメージで描いています。

——登場人物たちがそれぞれの思いを和菓子で伝えるという奥ゆかしさがとても好きです。和菓子に込める思いはどうやって決められているのですか?
和菓子に色々助けられている部分がありますね。
物語を作るにあたって、あるキャラクターともう一人のキャラクターを掛け合わせてみようと考えたときに、そこにどう和菓子を絡ませるかというのが難しいところなんですが、その和菓子をテーマとして持ってきたときに、この和菓子がどういう背景で作られたか、時期はいつなのか、とかその和菓子から見えるものは一体なんやろうなって視点を変えながら考えた時に、物語がグッと動くんですよね。

お鶴さんの話(4巻収録・第19話『春待ち偲ぶ』)では梅をテーマにしました。調べてみると、「未開紅」(みかいこう)という和菓子があって、冬の時期の和菓子なんですが、古くからある伝統的な意匠は取り扱っているお店もなかなか少なくなってきていると知り、それを今回テーマにして、こういう和菓子もあるんだということを知ってもらいたいなという思いもあってこの話はできたという感じですね。

趣味から漫画家デビューへ

——漫画家を志したきっかけは何ですか?
小学校の時に漫画家になりたかったと夢を語る子どもたちって多いんですけれども、私の場合も例にもれずちょっと漫画家になりたいなという思いはありました。
でも漫画家になりたいという夢を周りに言えなくて、夢は動物のお医者さんって書いていたりとかして、自分の中で押さえ込んでいたというところもありました(笑)。

でもやっぱり絵を描くのが好きで、色々な漫画の絵を模写したり、中学の時には漫画研究会に在籍したりして。そんな中で「漫画って描くのは難しいよな」という気付きもあって、やっぱり夢とは少し外れていたところもあったんですよね。

美術の勉強をするために高校でも美術コースに通って油絵をしていたんですけど、それも趣味程度に収まるだろうと当時は思っていました。普通に就職するだろうなと思って、曖昧な感じで過ごしていました。
でもある日、クラスメートの中で当時流行っていた4コマ漫画の単行本の巻末に、4コマ漫画の作品募集案内を見つけたんです。応募者からの入選作品を集めて単行本を作るというものでした。そこで友人と「やってみよう!」と二人で応募して、たまたま受賞して掲載されて!それが初めてペンを使って描いた漫画だったんです。

その時はまだ漫画家を目指していたわけではなかったのですが、2回目も出したらそれも運良く受賞して。その時に編集さんから、「商業デビューをする人を探していて、やってみませんか」とお声をかけていただきました。

こんなチャンスをいただけるなら4コマ漫画じゃなくて昔からやってみたかったストーリー漫画に挑戦してみようかなと思ったのが、漫画家を目指す一つのきっかけですね。その時高校3年生でした。

秋に入ると短大への推薦入学が決まったので、1月から3月までの3ヶ月の間、一作品を仕上げるということをやってみようと思って、同じ出版社の賞に投稿しました。そこで運よく佳作に選んでいただき、担当さんに「デビューまで一緒に頑張りませんか」と言ってもらって、そこで「目指すか!」と(笑)。

進学してからは、デビューしたとしても漫画一本では難しいかな、と思っていました。就職しながら二足のわらじでやっている人もいるし、自分も最初はその方がいいのかもしれないと思って就職活動をしていました。

短大在学中に、読み切り漫画が2、3作品掲載されて、ファンレターをいただいたんです。その手紙でファンの皆さんの感想をいただいた時に、こういう風に自分の描いた作品に対してこう思っていただいて、楽しんでいただけるなら、真面目にちゃんと向き合おうかなと決めて、就職せずに漫画一本で頑張ろうと奮起し、今に至る感じです。

——漫画家になってから苦労したことは何ですか?
締め切りです(笑)。今もなんですけどね(笑)。
物語を考えたりするのはすごく楽しいですが、生み出すのは難しいのでしんどいな……と思うこともありますね。キャラクターに辛い思いをさせる時も、自分に置き換えたりしてこういうこと描きたくないなと思ってしまって、辛い……!となることもあります。

でもやっぱり何が一番辛いかって、期日に間に合わせなくちゃいけないってことですね(笑)。
もう漫画を描いて30年くらいになるんですけれども、締め切りがくる度に辛い……!と思います。
でも、原稿を入稿したら、また描きたくなるんですよね(笑)。締め切りが辛いとは分かっているんですけれど、終わった後はまた頑張ろうかなという気分になるんです。これって色々な作家さんあるあるなのかなとも思います。

——1話が完成するまでどれだけ時間がかかるのですか?
私は毎月34か36ページを描いていて、原稿は大体10日ぐらいです。1ヶ月のうち、原稿を書くまでに至る最初の10日間は何をしているか記憶にないくらいで(笑)。次の10日間は物語を作るためにものを考えたり、資料を集めたり、話を聞きに行ったり、ネームを作るのに当てています。それから10日くらいをかけて原稿を仕上げています。
今の作家さんは半分くらいがデジタルで書いていて、1/4の作家さんはアナログで描いたのをデジタルに取り込んで原稿を描いているんですけれども、私はまだ全てアナログでやっています。なので出版社に送るために宅急便を使わなくてはいけないのでその分日数がかかるんです。

——漫画のアイデアが浮かぶときはどんな時ですか?
結局、家で悶々としていても何も思い付かないことが多くて。編集さんとの打ち合わせの連絡をもらって、返事はするんですけど、電話がかかってきた時に「出来ていません」というのがほとんどで(笑)。
でもその時に編集さんと話していく中で物語が固まっていくことが結構多いですね。それで、電話を切った後に、季節やその時期の和菓子を考えて調べていく過程で、ちょっと脱線して物語とは全然関係ないところでの考え方とかが少し引っ掛かってきたりするので、それを組み込んでみようという時があります。家で悶々としている時よりはちょっと違うことをしている時に色々組み入れて考えてみようとするとハッと思いつくことが多いかもしれないです。

京都でしか経験できない出会い

アニメ『であいもん』OPから。京都の大学生にはお馴染みの鴨川です。

——『であいもん』は京都の和菓子屋さんがテーマということで……。先生が一番好きな和菓子は何ですか?
昔から水無月が大好きで(笑)。6月30日の夏越祓(なごしのはらえ)がもうすぐなので楽しみです!
今まで時期を気にせずに食べていたんですが、暑気払いのために6月30日に食べると改めて知った時に「なんて深いんだろう……!」と思いました。自分の好きな和菓子がこんな深い意味があったなんて。水無月に限らず、和菓子の昔から親しまれていて「意味のあるもの」だということを『であいもん』という作品の中に取り入れて表現することについて面白いなと思うと同時に、気が引き締まる思いです。

——『であいもん』には和菓子だけでなく、たくさんの京都の風景が登場します。先生が京都で好きな場所はありますか?
みんなそれぞれ好きな庭園や場所があると思うんですけれども、小さい頃から色々な植物とかをゆっくり見られるなという点で、なんとなく京都府立植物園が一番好きかなって思います。

中でも温室が好きで、背の高い木だったり尋常じゃないくらい大きな葉っぱがあったり、日常生活ではみられないものが観られたり、雰囲気が違うんですよね。昔からそういうのが好きで、自分の住んでいる地域と違うものがすぐ観られるのが植物園かなと思っています。
異空間を味わえる場所ということで、京都府立植物園は大好きな場所です。

——先生の考える京都の魅力は何ですか?
自分が住んでいる土地の魅力ってなかなか分からないところがありますよね(笑)。京都以外のところに住んでいる方からすれば、「京都ってこういうところがいいよね」って言ってもらえるんですけど、京都に住んでいる身として「寺社仏閣が多くて、夏は暑いし冬は寒いで……」みたいなことしか言えなかったりします(笑)。

でも、ちょっと角を曲がればお寺があって、神社があってという空間自体が他にはなかなか無いなと思います。いつも解放されていて、そこにフラッと入ってお参りすることができて、ちょっと頼めば庭園を覗かせてもらえる。庭園を見ると普段の日常とは違う感覚を味わうことができる。そういう意味では、京都ってすごく親しみやすいところではないかなと思っています。

あと和菓子屋に関しても、他府県の方から「こんなに身近にいっぱい和菓子屋があるんですか?」というふうに聞かれるんですね。自分からすれば老舗の和菓子屋さんも支店があったり、ちょっとした上生菓子を売っている和菓子屋さんが近くにあったりするので、それはすごく不思議に思ったことがあります。
他府県では経験できなかったことが京都ではいっぱい経験できるかもなという感覚で来てもらえたらありがたいかなと思います。

——最後にこれからの『であいもん』の見どころを教えてください。
10巻で一果の問題がある程度が解決したということで、いろんな読者の方から10巻で最終回じゃないのかという風に思われていたんですけれど(笑)、そこから先は、和というもう一人の主人公の抱えている問題や周りの人との関係性を深めていきたいなと。もうちょっと日常を深く掘り下げて、和菓子と人との物語を描いていけたらと思います。

——これからも楽しみにしています!
ありがとうございます!

さいごに

みなさん、いかがでしたか?
京都、家族、そして和菓子。『であいもん』を通してみなさんも和菓子や京都をもっと身近に感じることができるはずです。

快く取材に応じてくれた浅野りん先生、素敵なお話をありがとうございました!

『であいもん』インタビュー記事第1弾はこちらから!↓

(取材・文:同志社大学 社会学部 成田萌)
(取材:同志社大学 グローバル地域文化学部 西村彩恵)
(写真提供:株式会社KADOKAWA)

この記事を書いた学生

かれんちゃん

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卒業生が執筆した記事はかれんが紹介しているよ!