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『京都ホームズ』作者・望月麻衣先生にインタビュー! -物語はフィクション、世界観はノンフィクション-

皆さん、『京都寺町三条のホームズ』 という小説をご存じですか?

京都に引っ越してきた主人公・真城葵(ましろあおい)と、頭脳明晰な鑑定士見習いの京男子・家頭清貴(やがしらきよたか)(通称:ホームズ)が京都を舞台に謎や事件を解決していくミステリーで、2018年にはアニメ化もされた大人気作品です。

私は高校生の時にこの小説に出会い、京都の大学に進学しようと決めました。
今回は、その作者である望月麻衣先生にオンラインでインタビュー!

京都を舞台にした作品を数多く手掛け、読んだ人が京都を訪れたくなる、そんな先生の作品はどのようにして生まれるのか、たっぷりと語っていただきました!

プロフィール

望月 麻衣(もちづき まい)
北海道出身、現在は京都在住。
2013年、エブリスタ主催第2回電子書籍大賞受賞でデビュー。
2016年『京都寺町三条のホームズ』で第4回京都本屋大賞を受賞。2018年にTVアニメ化。

その他、『わが家は祇園の拝み屋さん』『京洛アリス』『満月珈琲店の星詠み』など、京都を舞台とした作品を多く執筆。

京都での春夏秋冬を経て生まれた『京都寺町三条のホームズ』

―まず『京都寺町三条のホームズ』(以下、『京都ホームズ』)の構想の発端を教えてください。
私は2013年に京都に引っ越してきたんですが、そのときに編集者さんから「これからは『ご当地もの』が来ると思うから、望月さんの出身の北海道のことや、引っ越しした京都のことを書いてみたら?」と提案をいただいたんです。でも北海道に住んでいると、近すぎて北海道のことがよく分からないんですよね。むしろ外の人の方が北海道の魅力を知っていると思うんです。
例えば、『北の国から』というドラマでは、北海道の自然や風景がとても美しく撮られていますが、あれは外の人が撮っているから「絵葉書」みたいな美しい映像になっているのであって、地元の人にはあんなにきれいに撮れないだろうな、と思います。それならばと、移り住んだばかりの京都のことを書いてみようと思ったんです。

まずは1年間住んで京都の春夏秋冬を過ごし、翌年2014年の5月から書き始めました。それでもまだまだ私はよそ者なので、あえて主人公もよそ者目線で書くことにしました。

―望月先生の1年間の京都での経験から『京都ホームズ』は始まったのですね。
京都を舞台にした本を作っていくならどんなものがいいのかな、と考えていた時に、タイトルで中身を想像させられる話が良いなと、まずタイトルを決めるところから始めました。そこで、『京都寺町三条のホームズ』というタイトルがパッと思い浮かんだんです(笑)。このタイトルを軸にして、「じゃあホームズはどういう人がいいか、主人公は普通の女の子にしよう、よそ者だから京都のことが珍しくて……」など、そういったコンセプトを膨らませていきました。そして自分が経験して面白かった京都のことを話に入れていった感じですね。

―では、京都の外から来た葵のよそ者感覚は、望月先生ともリンクする部分があるのでしょうか?
感覚はまるっと自分ですね。昔から京都について書かれている文豪さんは多いですが、私は京都を詳しい形で書かずに自分だから書ける京都を、あえてわからない者としての視点も入れたら面白いかもしれないと思いました。世の中には京都以外の場所で暮らす人の方が多いので、共感してもらえるんじゃないかと。

―『京都寺町三条のホームズ』も17巻まで刊行されていて、葵も成長してきたように思います。
実は歳を取らせない設定にもしてみたかったのですが、春夏秋冬でストーリーを書いていると、冬の次はまた春なわけで。にもかかわらず年齢が変わっていないというのはあまりにも不自然で(笑)。致し方なく成長させていきました。
でも読者さんは親戚目線で葵たちの成長を見守ってくれているので、それはそれでよかったなとも思います。

―ホームズさんは葵曰く「いけずな京男子」とのことですが、一般的に知られる「京男」との違いは望月先生の中にあるのでしょうか?
言葉としては「京男」の方が正しくて、「京男子」なんて言ったら「そないな言葉はあらへんで」と言われてしまうんですが、「京男子」のほうがソフトだなと思って、あえて造語を使っています。

―現在の葵や物語初期のホームズさんは、京都学生広報部員の私たちと同じように大学で勉強をしている(いた)学生ですが、彼らはどんな学生生活を送っていると思いますか?
ホームズさんは店の手伝いもしつつ、きっちり単位は取りつつも、自分の時間は確保するなど、要領よくやっていたと思います。逆に葵は現在進行形で大学生ですが、真面目なのできっちりしてるのかな。

―うまく抜きを入れるのは、ホームズさんらしいですね。
そうそう、うまく抜きを入れながら(笑)。


(1巻(左)と8巻(右)。葵は高校生→大学生 ホームズさんは大学院生→社会人に。)

―『京都ホームズ』は、舞台が骨董品店ということもあり、骨董品や美術作品が作中によく登場しますが、骨董品や古美術について書こうと思ったきっかけは何ですか?
もともとアンティークショップが好き、という軽い気持ちから書きたいと思っていたんです。でもいざ書き始めると調べることが沢山あって。「とんでもない物を題材にしてしまった!」という後悔もありました(笑)。だから、自分も勉強しながら書いています。樂茶碗(らくちゃわん)を題材にするときには樂美術館に行って、そこにしかない資料も沢山読ませてもらったりしていました。教えてくれる人に巡り合えたり、京都には美術館が沢山あるので学芸員さんに質問したり、私も成長させてもらっています。

―作中では、和歌もよく謎のカギになっているのが印象的です。望月先生の好きな一首があれば教えてください。
京都を題材にするので、なるべく雅なものをと思って作品に取り入れました。そうすると、和歌に対する“憧れ”みたいなものが“好き”に変わっていったんです。もっとハードルが高いと思っていましたが、現代で言うところのTwitter、みたいなものかなと思ったりしますね(笑)。
好きな一首は藤原義孝の
「君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな」
(あなたに出会うことができたらいつ死んでもいいと思っていたけれど、あなたに会ってしまった今では一秒でも長く生きていたいと思うようになりました)
この歌がとてもキュンときますね。

―『京都ホームズ』にも出てきていた、自分の想いを伝える素敵な歌ですよね。


(藤原義孝の和歌は、5巻の『紫の雲路』に登場している)

出会いと感動が創り出す、リアルな京都

―『京都ホームズ』では京都の様々な場所が登場していますが、エピソードの舞台になる場所はどのように決めていますか?
雑誌やテレビの紹介で気になった所に行ってみて「好き!書きたい!」ってなることが多いですね。
16巻に出てきたアサヒビール大山崎山荘美術館も、以前から存在は知っていたのですが、一度行ってみたら本当に『京都ホームズ』の家頭邸の中がそのまんま。「あのオルゴールも、あの階段もある!」と感動して、どうしても書きたくなったんです。心が先に動いて書くほうが上手く書ける感じがしますね。

―アイディアを思いついた後、もう一度現地に行ってさらにアイディアを膨らませることもあるのでしょうか?
もちろんありますよ。書きながら、「あそこどうだったかな……。」と確認しに行くこともあります。例えば、神社のベンチに背もたれがあったかどうかで座り方の描写が変わってきたり、玉砂利の「ジャリッ」なのか、土なのか、芝生なのかによる足音の違いだったり、自動販売機があったかどうかでコーヒーを買って飲むという描写ができるかどうかだったり。実際の風景がその後変わる可能性もありますが、書く段階ではなるべくリアルで、という思いがあって。
物語はもちろんフィクションですが、細かなところは本当のことにしていきたいな、と思っています。

―望月先生の作品にはたびたび和菓子や京都銘菓も登場していますよね。『わが家は祇園の拝み屋さん』では主人公の小春の叔父・宗次郎さんが工夫を凝らした和菓子を作っていて、毎回美味しそうです。
和菓子は基本的に自分が食べたいものを書いています。例えば、「若鮎」は食べてみた時、美味しいけれどものすごくお腹一杯になったんですよね。だから小さい「若鮎」があったら嬉しいなと思って「ミニ鮎」を書いたり、妄想から作っています。お菓子の情報を見て食べに行くこともあります。季節のお菓子である「水無月」などは、なるべく食べたいと思いますね。


(和菓子職人の叔父・宗次郎(左)が手に持つのは「秘密入り」の桜餅)

―『京都寺町三条のホームズ』で登場する「Cacao Market by MarieBelle KYOTO」(以下、「カカオマーケット」)など、トレンドのお店にもよく行かれるのですか?
カカオマーケットは私が作中に書いた頃は、まだあまり知られていないお店だったんです。川端通を通りながら、「あの大きな時計の建物は何?」「多分カフェなんだろうな」と気になりながらもひっそりとある感じでなかなか入れなくて。
勇気を出して入ってみたら、チョコレートのカフェで、「こんなところがあるなんて!」とインスピレーションを受けて書いたんです。その後、カカオマーケットがメディアで取り上げられるようになって、一気に人気になりましたね。

―ホームズさんはカフェ好きを自称していますが、もしかして望月先生の影響ですか?
そうですね、昔からカフェが大好きなんです。主人の仕事の関係でもともと転勤族だったのですが、「どこに行っても、とりあえずカフェがあれば生きていける!」と考えていました。物語のプロットを書くときに、家で机に向かってやっても捗らないのが、カフェに行ったら、コーヒー1杯分の間に何とかしなきゃいけないという緊張感から捗ることもあるので、カフェの存在は偉大だなと思います(笑)。

―作中に登場する吉田山荘の「カフェ真古館(しんこかん)」も素敵なところですよね。それもカフェ巡りの一環で見つけられたのですか?
私はどこでもカフェ好きを自称していて、あそこを知ったキッカケは美容室なんです。美容師さんっていろんな人の情報を知っていたりするので、「どこかオススメのカフェとかありませんか?」と聞いたら、「望月さんが絶対好きそうなカフェありますよ。」と教えてもらったんです。京都ホームズ3巻が出た後の頃だったかと思います。『京都ホームズ』はもともと4巻完結で、春夏秋冬を書いて終わり、というのが最初の構想だったのですが、3巻の時点で結構人気が出たから「まだまだ書いてください」と編集者さんに言ってもらえて。嬉しかった一方「4巻で終わるつもりだったのにどうしよう?!」となってしまって……。

ちょうどスランプになっていたこともあって「無理かもしれない、謝ろう」と思いながら、気持ちを落ち着けようとオススメしてもらった「カフェ真古館」に自転車で向かったら、横溝正史の世界に出てくるような昭和初期の素敵なレトロ感で、「素敵!ここ!ここで事件起こる!!」となって書けたんですよね(笑)。単純ですが、家で悶々としても本って書けないんですよ、やっぱり外で刺激を受けないと。


(吉田山荘の敷地内にある「カフェ真古館」)

―様々な出会いが作品に影響を与えていたのですね。望月先生の作品では、「京都の横のつながり」も垣間見えるのですが、京都で暮らす望月先生が「横のつながり」を実際に感じることはありますか?
横のつながり、京都は凄いですよ!
例えば私の仕事に関して言うと、京都新聞さんに取材を受けたことをきっかけに京都文学賞のお話につながり、現在はアンバサダー(応援大使)を務めています。
また、『京都ホームズ』にも登場した大丸京都店の営業さんが、私の作品を読んでくれていて、京都の観光を提供する「らくたび」さんを紹介してくださり、さらにらくたびさんが京都市北区役所をつないでくださって……とか物凄いんですよ!

京都の方って心の扉が初めのうちはなかなか開かないと思われていますが、節度をわきまえて真摯に接していれば、とても良くしてくれるんですよね。人づてに一つひとつのご縁がつながっていくので「この人の紹介なら大丈夫」みたいな信頼関係をお互いに築けている気がします。

 


次のページでは望月先生の執筆の様子や京都観について聞いていきます!

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