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京都が誇る技術の宝庫「(株)島津製作所」を取材しました

はじめに

こんにちは。

みなさんは「京都の企業」というと、どこを思い浮かべるでしょうか。
色々思い浮かぶと思いますが、実は京都の多くの企業のはじまりが株式会社島津製作所にあることをご存知でしたか?

島津製作所とは、本社を京都に置く精密機器メーカーで、140年以上の歴史を持つ老舗の企業です。
最近では新型コロナウイルス感染症に向けた取組でもよく名前を耳にしますね。

今回は西大路三条の島津製作所の本社で榎本 晋虎(えのもと しんこ)広報グループ長へのインタビューと、ショールームの見学をさせていただきました。

それでは、その模様をご覧ください。

島津製作所のいま・むかし

――それではインタビューを始めさせていただきます。
京都を基盤として長らく企業活動を続けられてきた御社ですが、京都の企業ならではの取組がございましたら伺いたいです。

京都は1000年を超える長い間、都として栄えてきたこともあり、明治維新で日本の首都が京都から東京に移った際には、京都の人々はずいぶんがっかりしたそうです。

そこで当時の京都の政策でが掲げられたのが「殖産興業」。産業をどんどん立ち上げていこうという流れが生まれました。

そして、もうひとつ掲げられたのが教育に力を入れることでした。「番組小学校」(今でいう小学校)が創設され、「産業」と「教育」で京都を盛り上げていこうという気運が高まったんですね。

当時の日本ではテクノロジーやサイエンスはさほど発達していなかったため、ヨーロッパから外国人をどんどん連れてきて研究所が作られました。

そうそう、教育の分野で言うと、我々の創業と同じくらいのタイミングで同志社大学(官許同志社英学校)も開校したんです。実は同志社と島津製作所はどちらも明治8年創業で同い年なんですよ(笑)。

 

――おお、それは存じ上げませんでした……。

 

そんなふうに学校が整えられていく上で、教育活動には色々な実験器具が必要だったということもあって島津製作所の実験器具が教育現場で使用され……京都の「殖産興業」と「教育」の二本柱が、島津製作所の立ち上がりのベースになったということです。

そうした歴史的な流れによって京都には多くの大学が生まれ、島津製作所はずっと大学と共に歩んできました。京都大学や同志社大学、立命館大学や京都産業大学など、多くの大学と今でも深く関わっています。

 

産業を立ち上げる流れの中で島津製作所が歩み出したわけですが、当時はハイテク産業関連の企業はほとんどありませんでした。ハイテク分野で多くの企業が誕生するのは島津製作所の創業以降です。

島津製作所の中で誕生した電池事業が独立してできたのが日本電池(現在の株式会社ジーエス・ユアサ コーポレーション)。さらに電池を作る際にできる良質な鉛粉を原料にした塗料を作ったのが鉛粉塗料(現在の大日本塗料株式会社です。

この塗料は東京スカイツリーにも使われていますね。


GSユアサ製のバッテリー

実は日本で初めてマネキンを作ったのも島津製作所です。

当初、実験道具の一環で人体模型を作っていたのですが、大正時代とともに洋服の需要が増えたことでマネキンが必要となり、製造するようになりました。ちなみにマネキン事業は戦後に七彩工芸(現在の株式会社七彩 親会社 ワコールホールディングス)に移行しています。

現在でも様々な企業と繋がりが深いですが……京都の「殖産興業」のスタート地点にあったのが島津製作所で、パイオニアとして様々な技術や製品を作ったことで、多くの会社の歩みにつながりました。

実は創業をたどると、もともと明治維新までは、仏具を作っていたんです。

金属加工で微細な加工をしたり、大きなものは木材を加工して装飾を作っていました。

創業者の島津源蔵は腕利きの職人だったんですね。

その後、廃仏毀釈運動の影響から事業の傾きを恐れていたところ、近所の理化学研究所でヨーロッパからの外国人が科学の講義を行っており、そこから計測機器分野に転換したということです。

 

こうした島津製作所の歴史は創業記念館で学ぶことができますので、ぜひ訪れてみてください。

島津製作所 創業記念資料館のページはこちらです

https://www.shimadzu.co.jp/visionary/memorial-hall/

 

認知症が血液だけでわかる

 

――御社にはノーベル賞を受賞された田中耕一さんがいらっしゃいますが、田中さんのこれまでの取り組みと、差し支えなければ現在取り組まれているプロジェクトについてお聞かせいただきたいです。

 

田中さんはノーベル賞受賞の直後から「血液1滴でいろいろな病気を見つける」ことを目標とされていましたが、現在でもそれは変わっていませんね。

最近、病気の中でも田中さんが最も注目しているのが認知症です。認知症の進行度合いを血液検査のみで分かるようにしようと取り組んでいます。将来病院での検査に応用できるよう、現在も研究しています。

 

――そうした認知症診断を、私たちが社会で受けられるようになるまでの課題は何でしょうかか?

 

田中さんが最も危惧されているのは「認知症患者が検査の結果からショックを受けるのではないか」ということです。認知症に対する根本治療の方法を示せないのならば、「治せない病気のことを知った患者に伝える必要はあるのだろうか」「その結果に対するケアができなければ、意味が無いのではないか」ということですね。

 

――医療と倫理の問題は現在ものすごく取沙汰されていますが、田中さんの考えは医療に携わるすべての人が大切にしなくてはならないことだと思います。

コロナ禍での志

 

――今現在、コロナ禍ということで御社ではPCR検査装置を開発されていたり、京都産業大学との間でコロナ検査に関する連携を行われていたりと、新型コロナウイルス感染症対策に向けて精力的に活動していらっしゃいます。そうした取組において大切にしていらっしゃる志について伺えればと思います。


新型コロナウイルス感染症が流行し始めてすぐに弊社の社長が「感染症対策プロジェクト」を立ち上げ、2020年5月に公開された中期経営計画では、「感染症対策」を最重要プロジェクトとして位置付けました。

 

「『人と地球の健康』への願いを実現する」という経営理念のもと、自社のあらゆる技術を結集して感染症の克服に貢献するんだという思いでした。

 

新型コロナウイルス感染症のPCR検査において、従来の方法では検査可能な場所に限りがあり、結果が出るまで時間がかかることが課題になっていました。

そこで、まず従来よりも短時間で検査が可能となる「新型コロナウイルス検出試薬キット」を開発し、次に町のクリニックでも導入できるような、低価格で簡単に使用できるPCR検査装置の開発に成功しました。

以前からPCR検査装置を開発していたわけではありませんが、装置の主な要素である「ロボット技術」「温度調節機能」「光の照射技術」というテクノロジーを有していたので、これらの担当部署が力を合わせたことで、半年間での迅速な開発に成功しました。

これらの試薬と装置によって、町の病院やクリニックで簡単に検査ができるようになりました。

 

――多くの部署が製造に関わったことで人件費もかかったかと思いますが、価格を抑えて一般への普及に成功したのは素晴らしいことだと思います。

 

地域や大学との関わり

 

――次の質問になります。学校法人島津学園が京都医療科学大学という大学を運営されていたり、また先ほどの田中耕一さんも多くの大学で講演されたりと、京都の大学とのかかわりが非常に多い印象ですが、大学と関わることへの思いをお聞かせいただければと思います。


やはり京都という土地で島津製作所が生まれ育ったことによる地元への愛を持っています。京都で仕事をする以上、京都の大学を大事にしていきたいという気持ちはありますね。

社長をはじめとする役員や従業員が講演に行くことも多いです。同志社大学などの色々な大学と連携しています。

 

京都医療科学大学は、被ばくという危険を伴うX線撮影装置の技師を育てるための養成所として始まりました。これが現在は大学になっています。

 

総じて、ずっと身近な関係であるからこそ各大学からのご相談もよくお受けしますね。先ほどの京都産業大学との新型コロナウイルス感染症対策での連携もそうです。

 

――京都の産官学連携の中で、どの分野でもご活躍されているということですね。

 

京都は、企業も大学も、もちろん行政も地元愛を持っている不思議な土地だと思います。京都の企業はなかなか育った土地から離れないところが多いですね。

 

――“京都愛”って言葉にしたらひとつですけれど、それだけで多くの団体や企業が動くというのは本当に不思議なことですね。

お答えいただき、ありがとうございました。

 

島津が誇る製品の数々

続いて、本社内の「Science Plaza」をご案内いただきました。

島津製作所が製造してきた多くの製品がどのように活用されているかについて知ることができます。

こちらは現在最も注目されている製品ですね。そう、PCR検査装置です。

思っていたよりもコンパクトな外観です。

フタを開けるとこのようになっています。試験管の中で試薬と唾液などの検体を混合し、温度制御と光照射を通じてウイルスを検出します。

こちらの装置では、食べ物の食感を測定・評価することができます。

主観的になりがちな感覚を定量的に評価できるというのは面白いですね。

 

こちらの装置は有名なグルメ漫画にも登場しており、“究極のグルメ”の開発にも役立てられたそうです。

こちらは超高速度ビデオカメラです。

よくテレビ番組で一瞬の出来事をスローモーションで映した映像が使われていますが(チーターが走る動画とか)、このカメラを使うことでよりミクロな視点で観察することができます。

 

たとえば、インクジェットプリンタのノズル付近を捉えた映像を見せてもらいました。
インクの出方ひとつで印刷の精度が変化して不具合に繋がったりするそうで、製品の評価に役立っているそうです。

島津製作所の技術が結集されたハイテク製品に囲まれて、なんだかとても非日常的な時間を過ごしたように思います。
私たちの日常も、機械を通じてミクロ/マクロな視点で見てみると面白く、またそうした視点が人々の生活を支えているのだと改めて感じました。

おわりに

いかがでしたか?

島津製作所、名前はよく聞くけれど、意外とその事業内容はよくわからない……という方が多かったのではないでしょうか。

本記事を通じて、島津製作所の技術や製品について理解が深まったのなら幸いです。
コロナ対策をはじめ、島津製作所の今後が楽しみですね。

 

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