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京都橘大学発!学生とまちが生み出す新たな観光ツアー

こんにちは。皆さんには将来興味のある分野はありますか?読者の皆さんの中には観光系の学部に興味がある方も多いのではないでしょうか。
今回は大学で新たな形の観光ツアーを開発している学生にスポットを当てながら、日本を代表する「国際文化観光都市 京都」で観光を学ぶということについて考えてみたいと思います!

京都で観光を学ぶということ

今回取材させていただいたのは京都橘大学の現代ビジネス学部で学ぶ大垣佳乃 (おおがきよしの)さん(三回生、写真左)です。
大垣さんは文化政策学・観光学を研究されている谷口知司(たにぐち ともじ)教授(写真右)のゼミナール(演習)で「洛和会ヘルスケアプロジェクト」のリーダーをしています。

谷口教授のゼミナール(以下、「谷口ゼミ」)では京都をフィールドとして、観光に関する様々なプロジェクトを手掛けています。
それでは谷口教授にお話をうかがいます。

――そもそも、「観光学」とはどのような学問なんですか?
私はもともと文化政策学を研究しています。文化をどう政策に生かすか研究する学問です。そのため、観光は重要な研究対象です。
観光学はかなり幅の広い学問です。観光の対象、主体(観光する人)、媒体(交通機関など)が複雑に絡み合っています。観光学ではそれらの複雑な関係を読み解いていきます。
ですが、私は一言で言えば「世界平和」のための学問だと思ってるんです。観光はそれぞれが違いを認め合いながら共存できる社会を作っていくことに貢献できる。
目先のことも大事ではありますが、学生にはそういう本質の部分も学んでもらいたいと思いますね。

――なるほど。谷口ゼミではどんなことを学んでいるのですか?
「ゼミナール」(ゼミ・演習)とは教員の監督のもとで学生が自主的に研究を行う形式の授業です。
ゼミそのものは週一回ですが、学生は日々プロジェクト達成のために努力しています。ゼミの時間は報告会といった感じですね。
自分で動ける生徒を育てたいので、明らかに方向を逸脱したとき以外、私は口を出しません。上級生が下級生を教えたりして自主的に学ぶ体制が作られています。

谷口ゼミでは「洛和会ヘルスケアシステムプロジェクト」、「こだわり市場プロジェクト」「修学旅行プロジェクト」、「伝統文化山科プロジェクト」という4つのプロジェクトを実行しています。今回ご紹介する「洛和会ヘルスケアシステムプロジェクト」では、高齢者向けの「高齢者ツーリズム」を計画・運営しています。
また、学生が京都のお店を取材し、冊子作成やサイト運営まで行う「こだわり市場プロジェクト」があり、そこで取材した店舗の中から、ツアーに組み込む店舗を決めています。

夏には海外研修もあります。観光学のゼミらしく、ホテルの手配や旅行の行程立案など、できることは全て自分たちで行います。今年はマレーシアに行ってきました。

――谷口ゼミの学生はどのような進路に進まれていますか?
はじめは観光業に興味がある学生が多いようですが、進路はさまざまです。大学で多くのことを学んだ結果、入学時と卒業時で考えが変わることはよくあります。今回のプロジェクトも、洛和会ヘルスケアシステムに就職した卒業生から話が持ち込まれて実現したものです。
ただ、どんな業界でも通じることもあります。ひとつは「ホスピタリティ」です。目の前の人を思いやる「おもてなし」の精神はどんな世界でも生きてくる能力です。
もうひとつは「交渉能力」です。プロジェクトにかかわる学生は自ら取材相手に約束を取り付けたり、お店と交渉したりします。これもどのような職業に就いても必要な能力だと思います。

――最後に、京都で観光を学ぶ意義についてうかがいたいと思います。
やはり「ホンモノ」を見て学べるということではないでしょうか。多くの神社仏閣があるのはもちろんのこと、旅行者が集中することで起こる「オーバーツーリズム」といった社会問題も含めて間近で見ることができます。
どの地域にもいろいろな社会問題がありますが、観光はそうした問題を解決することにもつながります。旅行者にやさしい地域は市民にもやさしい地域ですからね。
京都を「観光客にやさしいまち」にしていくことは、京都のまちを住みやすくすることでもあるのです。
また、京都には大勢の修学旅行生がやってきます。こちらが豊富な観光コンテンツを用意することで、彼らに学びの機会を提供することもできるのです。

「人」と「まち」とをつなぐために


(洛和ホームライフ音羽 福岡良太さん:写真左)
今回取り上げる「洛和会ヘルスケアシステムプロジェクト」は谷口ゼミと、病院や介護施設などを運営する洛和会ヘルスケアシステムがタッグを組んで、新しい観光ツアーを生み出すプロジェクトです!
「観光」と「福祉」という組み合わせにはピンとこない人も多いと思いますが、実は社会の流れをとらえた最新のプロジェクトなのです。それでは、プロジェクトに関わっている洛和会ヘルスケアシステムの職員で、介護福祉士の福岡良太(ふくおかりょうた)さんにお話をうかがいましょう。

――まず、今回のプロジェクトはどういう経緯で始まったのでしょうか。
いま全国で高齢化が進んでおり、多くの高齢者がおられます。年齢を重ねると体が弱ったり認知症になる方もおられますが、それでも人は住み慣れた場所で暮らしたいものですよね。
そうした暮らしを支えるために、地域にある病院や介護施設、行政などが協力してお年寄りを支えることを「地域包括ケア」といって、今の福祉の一つの流れになっています。
また、社会にはさまざまな「バリア」があります。階段や道路の傾きといったハード面もそうですが、何かやりたいことがあってもサービスを利用できないといったソフト面の「バリア」もかなり多いのです。

観光を専門とする谷口ゼミの皆さんがお年寄りを支える仲間に加わり、高齢者向けの旅行ツアーを生み出すことで地域にある「バリア」が一つ減り、高齢者がよりよい生活を送ることができます。これは観光学で「ユニバーサルツーリズム」というそうです。
旅行業にとっても新たな顧客や観光商品(旅行ツアーなど)を生み出すことにつながります。

――なるほど、洛和会ヘルスケアシステムさんはどういった形でツアーに関わっていらっしゃるのですか?
谷口ゼミの方に高齢者の暮らしを体感してもらうため、ツアーに先立って当会のサービス付き高齢者向け住宅「洛和ホームライフ音羽」で2度の体験学習を行っています。
ツアーに行くのもその施設で暮らすお年寄りで、介護福祉士、看護師も同行します。
このツアーは2018年に始まり、今回で3回目になります。毎回ご入所者の皆さんにはご満足いただいています。

「安全」で「楽しい」ツアーをつくる

――ここからは実際のツアー開発について大垣さんにお聞きします。今回のツアーにあたって、どんな準備をされたんですか?
まずは高齢者の方々のニーズを把握するために、洛和会ヘルスケアシステムさんのご協力で高齢者施設での「職場体験」と、高齢者に起こる体の変化を体験する「高齢者疑似体験」を行いました。

――実際に触れあう前には、「高齢者」ってどういうイメージでしたか?

若者の中にはお年寄りの方に対して「頑固」「昔話が好き」といったイメージを持っている人も多いと思います。
でも実際に職場体験に行ってみると皆さんフレンドリーで表情も明るく、いろいろと話してくれるんです。
職場体験では施設の敬老会に参加し、配膳などのお手伝いをしながら皆さんとお話しさせてもらいました。コミュニケーションを通じて、お年寄りの皆さんの日常の暮らしをより理解できた気がします。

――次は疑似体験ですね。具体的には何をするのですか?

車いす体験と、運動に負荷をかけるための装具や視野を狭めるゴーグルを使った高齢者疑似体験です。
車いす体験では「自分の意思と無関係に動く」ことがどういうことかを学びました。押される側からすると車いすってけっこう早いんです。方向転換するときなど、怖いと感じることもありました。声をかけながら介助することの大切さを学びました。
負荷器具体験では年齢が体に与える影響について学びました。腰が曲がると歩くのも大変で、杖の重要さも痛感しました。視野も狭くなるので少しの移動でも一苦労です。
疑似体験で高齢者の負担を体感できたことは、ツアーを考えるうえでとても参考になったと思います。

――実際にツアーを作っていくうえで、気を付けたことを教えてください。

ツアーでは宇治で平等院などを観光することが決まり、事前に下見を行いました。寺社の境内は砂利道が多いので、コースには段差の少ないところを選び、さらに車いすの方向けにルートを分けるといった工夫をしました。
ショッピングでは雑貨店とカフェを巡るのですが、車いすが入れて、しかも大人数での訪問が可能かどうかを考えながらお店選びを進めました。

また、利用者の皆さんが興味のあるところもコースに組み込みました。
観光の知識を生かした「楽しい旅行」に、介護施設での体験から得た「安全性」を取り入れながら、新しい形のツアーを作ることができたと思います。

――将来、やってみたいことはありますか?
私はもともと観光業界志望なのですが、今回のツアーの企画を通じて、今まで旅行しづらかった人たちも利用できる、ユニバーサルな旅行に携わりたいという夢ができました!

まとめ 地域と共に学べるまち・京都

いかがでしたか?「京都で観光を学ぶ」ことのリアルを感じてもらえたでしょうか。僕も修学旅行生向けツアーガイドのボランティアをすることがありますが、「観光」という分野の奥深さ、他分野との組み合わせなど、知らないことがたくさんありました。
そして福祉分野にも多くの可能性を感じました。「高齢者」や「介護施設」と「地域」との新たな組み合わせや仕組みを柔軟に考えながら、住みやすいまちをつくるための研究・活動を京都橘大学では実践されていることを知っていただけたと思います。
今回改めて感じたのは、京都と地域の連携の「自然さ」です。全国的に「プロジェクト学習」といった取り組みが盛んに取り上げられますが、京都ではもっと自然に、地域と大学があちこちで「助け合っている」印象を受けます。
きっと昔から大学と共存してきた「学生のまち・京都」ならではの形なのでしょう。それぞれの学びが地域の人々と結びついて新しい花を咲かせていく、そんな京都で皆さんも学んでみませんか?

旅行先など、今回のツアーの詳しい情報はこちらもどうぞ

 

(同志社大学 社会学部 西野洋史)

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