【留学体験記】ロシアの「アツい」夏
寒くなってくると、あれほど悩まされた京都の夏の暑さも忘れてしまいます。きっと来年も「今年は特に暑い!」と言いながら過ごすのでしょう。
そんな都合のいい記憶力を持つ私が忘れられない「アツさ」があります。大学4回生の夏休み、ロシアの首都モスクワにある国立プーシキン記念ロシア語大学に1か月留学した時のことです。
ロシアと聞くと、どのようなことを想像しますか?寒そう、暗そう、治安は大丈夫なのか、そもそもロシアに行った人ってあんまり聞かない、などなど…。
この記事では、そんなイメージを持っている人にも知ってほしい、実際に訪れて見えたリアルなロシアの「アツさ」をお伝えします。
もくじ
360度ロシア語に囲まれた環境だからこそできる勉強
実は私はこれまでの大学生活で3回海外へ行きましたが、全て旅行ではなく留学でした。
大学生が選べる留学の形式は多岐にわたります。メジャーなのは交換留学やホームステイ、他にも大学のプログラムや、国が主催の公募プログラムなどなど。多くの大学は長期休暇が1~2か月あり、この機会に短期留学をする人もいます。今回私が参加したのはロシア政府主催の国費留学プログラムで、日本全国から80人ほどが参加していました(初級文法を学習した30歳以下の学生が対象)。
私は大学でロシア文学を専攻しているのですが、日頃の勉強は文学作品の和訳が中心。ネイティブの先生ともなかなか会話ができません。「来年は大学院に進むつもりなのだから、せっかく勉強している言語をもっと話せるようになりたい!」と、このプログラムへの参加を決めました。
現地での授業はもちろん全てロシア人の先生がロシア語で進めます。「聞く」「話す」ことに重点を置いた授業で、フランス人やイタリア人とロシア語で会話することもありました。日本ではなかなかできない勉強です。日常生活では大学の職員さんに図書館がどこにあるか聞く時も、部屋の電球を取り換えてもらう時も全てロシア語。お店の看板、スーパーの値札も、もちろんロシア語です。
1か月経った頃にはペラペラ話せるとまでは言わなくとも、目や耳が慣れて知っている単語はすぐに口から出て来るようになりました。日本では辞書を見ながら和訳をしていますが、いざ360度ロシア語に囲まれた環境に放り出されたらそんなことをしている余裕はありません。時には心が通じ合って安堵し、時には思い違いからトラブルになり…。そのような経験をしながら生きた言葉を知ることができるのです。
確実に、たくましくなれます(笑)。
自分の五感で確かめるロシア
授業が早く終わった日や休日には積極的に観光を行いました。ツアーではないので行先は自由に決め、移動やチケットの購入も全て自分で行います。3連休を利用して、夜行列車で他の都市に旅行した友達もいました。街中では語学の勉強だけでなく、ロシアという国の空気や文化を味わい、人々の行動をつぶさに観察することができます。
モスクワにいた8月末から9月末のうち前半の9月中旬までは日差しが強く、シャツ1枚でアイスを食べながら観光をしていました。一方、後半は急に冷え込み、セーターの上にコートを着た日もあります。ロシアの固定観念として「年中寒い」みたいなイメージがよくあるのですが、いつでも寒くて雪が降っているわけではありませんでした。
ロシアといえば、この記事の最初に載せた写真に写るカラフルなねぎぼうず頭の建物を思い浮かべる方もいるかもしれませんね。この教会(聖ワシリイ大聖堂)をはじめ、モスクワには古い教会がたくさんあります。博物館や美術館といった施設からも、ロシアが長年積み重ねてきた歴史や文化を垣間見ることができます。宇宙飛行士博物館では、世界で初めて有人宇宙飛行を成功させた国としての、宇宙開発に関わる強い意志を感じることができました。
団体観光客は多いのですが、単独で行動するアジア人は珍しいのか、話しかけられることがよくありました。「どこからきたの?」「ロシアで何してるの?旅行?留学?」「日本はどんな国?」などなど。ロシア人は無愛想に見えていたのですが、話し始めるととても楽しい人たちでした。道に迷っても絶対に助けてくれます。
さすがは大国、公園や美術館ひとつとっても信じられないほど大きいです。移動のためにかなり歩きましたが、その道中も全て勉強になりました。新しいことを知ることもできますし、イメージしていたことが覆されることもあります。やはり自分の足で歩いてその国に暮らす人と触れ合うという体験は、何にも代えがたいものです。
たとえば、ロシアには24時間営業の花屋があります。ロシアでは特別な記念日でなくても花を贈り合う習慣があるのです。1ヶ月いてもまだまだ知らないことはたくさんあるのでしょう。「絶対にもう一度また来たい!」と思える留学でした。
海外渡航のススメ
さて、ここまで長々と書いてきましたが私がこの記事で一番言いたいことは
「学生のうちに自分の目で海外を見るべき!」
ということです。
外国語の勉強なら日本でもできるし、ネットで検索すれば綺麗な風景も見ることができます。しかし、実際に海外に行ってその国の空気に触れるというのはやはり格別です。何より、大学生のうちは時間があります。社会人になったら1週間でも海外に行くのはなかなか難しいでしょう。だからこそ私は大学生のうちに海外に行ってみることをお勧めしたいのです。
文化や習慣、建物のつくり、交通事情に至るまでその国独自のものがあります。当たり前のことですが、ずっと日本にいるとついそれを忘れてしまいます。また、外から日本を見つめ直す体験もできるのです。
もちろん、勉強やバイト、サークルに忙しい人も多いでしょう。海外に行くにはお金もかかります。海外に行くなら1年くらい留学しないと意味がない、という話もよく聞きますが、少しでも外国の空気を知っているのとそうでないのとでは大きな違いがあります。最近では比較的安値で行ける国もあるので、ちょっとした旅行でもぜひ、自分の目で海外を見てもらいたいです。ツアーや留学プログラムではなく個人で海外に行く場合は、政府の渡航情報サイトを見たりニュースをチェックしたりと、安全な旅行ができるように十分気を付けてくださいね。
ロシア、ひいては海外に対する私の「アツい」思いが伝われば幸いです。
(京都大学 文学部 石川侑希)