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【京料理萬重 だし講習】本物のだしを味わってきた&若主人の田村 圭吾さんにインタビュー

巷で日本の「だし」がブームになっていることを知っていますか?和食の基本である「だし」、最近では「だし」そのものをカップで提供するお店まで出現するほどの人気っぷり。

毎月15日は第15回京都学生祭典の企画として、学生が文化について学び、発信する「京都学生文化発信の日」。今回は「だし」について学び、実際に食材をつかって「だし」をとる体験をする「だし」講習の様子と講師である京料理 萬重若主人 田村圭吾さんのインタビューをお届けします。そこで聞けたのは、何とも意外なお話でした……!

「だし」を通じて「日本」に気づく

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会場の京料理萬重本店の一室に講師の田村さんが登場し、いよいよ講習が始まりました。今回は、京都学生祭典と「東アジア文化都市2017京都」との連携企画として実施される日中韓の「だし」講習の第1回。日本の「だし」、そして和食についての理解を深めます。田村さんは、文化庁の京都移転を契機に「文化の力で日本を元気にするために、自分たちに何ができるか」を考え、市民ぐるみで行動するチーム京都「文化庁京都移転・私たちができること推進チーム」に京都学生祭典実行委員会と共に参画されていることもあり、快く講師を引き受けていただきました。受講者は、京都学生祭典の実行委員の皆さん。時には真剣に、時には朗らかな雰囲気で受講していました。

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実際にだしとり体験をする前に、まずは資料をもとに和食・だしについての知識を学びます。
だしに使う水の種類やだしの原材料などのレクチャーと並行して、たびたび田村さんが私たちに伝えようとされていたのは、「日本文化が失われることに対する危機感」でした。ただ、和食やだしの「良さ」だけを教わるだけではなく、伝統的な日本文化が、西洋文化に置き換わることによって衰退し、「日本のこと・文化をよく知らない日本人」が増えてしまった今の日本に対する危機感をご自身の経験をもとに語られました。田村さんは学生時代にカナダに留学した際に、「日本の文化や歴史を外国人に説明できない」日本人を目の当たりにして、危機感を抱くようになったそうです。
「衣食住のうち、『衣』と『住』はほとんど西洋文化にとってかわられてしまったけれど、『食』はまだぎりぎりセーフ」今、私たちの世代が和食に立ち返ることには大きな意味があるようです。

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座学のあとは、田村さんにご指導いただきながら、学生が実際にだしをとる体験が行われました。みんな、心なしか目が輝いています!実際にだしをとったあとには、心ゆくまで試飲しました。今回とっただしは、昆布をベースに、①かつお②さば③とり④まぐろの4種類の削り節を合わせたもの。田村さんもあまり使われたことのないようなだしもあり、軽妙なトークとあいまって大盛り上がりでした。

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まずは昆布だけでとっただしを試飲したところ、思いの外味が薄く感じました。ところが、そこにかつおの削り節を入れると一変。昆布とかつおにはそれぞれ別の種類のうま味成分が含まれていますが、両者を合わせることによりうま味が相乗効果で何倍にも増幅するそうです。
そして最後に少量の塩と淡口しょうゆで味を調えれば、まるで料亭のお吸い物のような味わいに!試飲する学生たちの至福の表情が印象的でした。

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家庭で使われる昆布よりもだしとりに適した昆布を使っているため、家庭でなじみのあるかつおのだしよりも、濃厚なうま味が感じられました。さばのだしはうどんや煮物にもよく合うなじみ深い味、とりのだしはラーメン(!?)のような面白い味わい、まぐろのだしは上品でさっぱりとした味わい。同じだしでもこんなに違うんですね……!

京料理人・田村圭吾さんにインタビュー

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ここからは今回の講師、田村圭吾さんのインタビューをお送りします。田村さんは、京料理 萬重の若主人であり、京都料理芽生会(若手料理人の会)の会長として、若者や子供たちへの和食文化の普及や和食の魅力の海外発信にも精力的に取り組まれています。

――中学生、高校生の頃はどんな生徒でしたか?

ボーイスカウトを長い間ずっとやっていて、そこから色々なことを学びましたね。「国際的な社会につながること」とか、「課外活動を通してより良い社会人を育てる」という教育システムだったので、その部分を意識して成長したところはあります。

――学生時代の料理の腕前は?

料理人の家に生まれたので、当然、料理は「するもの」として育ってきましたし、ずっと好きでした。小学5、6年生ごろから料理を作っていたので、大学生時代にはそこそこ何でも作れるようになりました。ボーイスカウトでも作っていましたね。京料理以外にも、洋食など一般的なものは何でも作ります。

――失礼ですが、いわゆる「ゲテモノ」は作られたことがありますか?

変わったものは作りましたよ。小学校の時にメロンジュース(メロンと牛乳を合わせたジュース)が美味しかったので、同じウリ科のキュウリでもいけるんじゃないかと思って、キュウリと砂糖と牛乳を合わせてキュウリジュースを作ってみました(笑)。全然おいしくなくて、弟に全部飲ませましたね。今でも弟に「いままで(田村さんが)作った料理のなかで一番まずかった」と言われます(笑)。あと、大学生の頃にボーイスカウトでサバイバルをやって、四国の無人島で調味料と米だけ持って行って自給自足をしたときに、トンボやバッタや山菜、それ以外にもいろいろ不思議なものを食べましたね。

――修業時代にはどんなことがありましたか?

カナダから帰ってきて修業に入ったのですが、当時は朝6時から夜11時までが通常の仕事でした。修業する人は「まかない番」をするんですが、修業に入って半年で初めて朝食を作ったときに、煮方さん(親方の次の2番手の料理人)が味噌汁を飲んで、ぴたっと止まって、「今日の味噌汁作ったん誰や」と。ああ、怒られる……と思ったら「ほう、やっぱり料理屋の息子やのう。美味しいわ、おかわり」って言われたんですよ。その時のことは料理人を続ける支えになっていますね。それと、食べることが将来仕事になるから、小学生や中学生の頃はおいしい店によく連れて行ってもらったんですけど、「これおいしいな」と思ったものは、家に帰ってから弟と一緒に味の再現にチャレンジしていました。どういう調味料、どういう素材を使っているか自分たちがわからないとだめですからね。

――大学生や下宿生が自分で和食を作るときには、どんなことに気をつければいいですか?

やっぱりだしはベースになるものなんです。顆粒のだしでも構わないので、だし:醤油:砂糖を12:1:1の割合で混ぜるとおひたしのだしができます。そこにゆがいた野菜を入れればちゃんとしたものができます。例えば、肉とジャガイモ、ニンジン、玉ねぎを入れたら肉じゃがに近くなるし、うどんをいれたらうどんだしに近くなるし。ただ、これだと薄いので自分の好みに合わせて塩気を足したり砂糖を足したりするといいです。このおひたしのだしは割と万能でいろいろ使えます。でも、どんな料理でもちゃんと一回自分で味をみることが大切ですね。みんな調味料をバサッと入れがちですから、ちょっとずつ入れて味をみて……を繰り返した方がいいですね。

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――世界中にもブイヨン、スープなどいろいろな「だし」がありますが、日本のだしにしかない魅力は何だと思いますか?

「カロリーが低い」というのは一つの魅力ですね。他の国の「スープ」は、どちらかというと体に滋養を与える効果のあるものが多いんじゃないかな? 実はだしを飲むと満腹中枢が刺激されて、少しの量でもお腹いっぱいになるんです。だしを食事の最初に飲むというのは理にかなってるんですよ。日本食は低カロリーで、世界のダイエットブームを突き詰めると日本食に帰ってくるんです。なのに、日本人はやっぱり欧米のものばかり食べようとします。文化とは、その土地の気候風土に合わせた知恵が定番として残っているものなので、若い世代の人にはそれを見つめ直してほしいですね。

――和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことについて、どのように受け止めていますか?

無形文化遺産に登録されたということは、このまま放っておけば滅んでしまうと言われているのと同じです。その意味では、必ずしも喜んでいません。
若い人の食生活を見ると、和食が衰退していると実感します。欧米人と日本人は体の構造とか腸の長さが違いますからね。自分たちの環境に合うように人間の体は進化していったのに、突然、文化や食文化が変わってしまって、それを何とも思わないまま受け入れてしまっている人がとても多い。日本人はもう少しアイデンティティを確立したほうがいいし、自分の住んでいる国や地域のことをちゃんと知って、愛することが大切だと思いますね。こんなに自分の国に対する愛着が低いのも日本ぐらいですよ。

――貴重なお話をありがとうございました。
最後に、コトカレの読者である中高生に向けてメッセージをお願いします。

やっぱり、自分たちの国や地域の文化にもっと興味をもって、いろいろ知ってほしいし、そういう機会に触れてほしいと思います。和食に興味を持ってくれた子も、なにか他のことに興味がある子も、色んなことにたくさんチャレンジしてもらいたいですね。

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だしや和食だけでなく、日本文化を愛し、今の日本を憂う田村さんの姿勢に、はっと気づかされる場面もたくさんありました。いつの間にかわたしたちは、「現代を生きるために」暮らしやすい方法ばかりを追求して、自国の文化をないがしろにしているのかもしれません。歴史の深い京都に住んでいるからこそ、気づく機会、知る機会がたくさんあります。中高生のみなさんも、自分の今住んでいる地域のことを改めて調べてみてはいかがでしょうか。新たな発見があるかもしれません。

京都学生祭典実行委員が講習で学んだことは、8月27日(日)に開催する「京都学生祭典15thアニバーサリーフェスタin京都駅ビル&ポルタ」でも発信予定。
また、9月16日(土)・17日(日)に開催の「京都岡崎ハレ舞台×東アジア文化都市2017京都 –東アジアの祝祭-」では、学生が来場者に日中韓のだしやスープを振る舞う予定です。ぜひお越しください!

[京都学生祭典15thアニバーサリーフェスタin京都駅ビル&ポルタ]
http://www.kyoto-gakuseisaiten.com/raijyou/anniversaryfesta-kyotostation
[京都岡崎ハレ舞台×東アジア文化都市2017京都 –東アジアの祝祭-]
http://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000222670.html

今回の講習・インタビューは、第15回京都学生祭典の「京都学生文化発信の日」との連動企画。毎月15日に,京都の文化に関わる方にインタビューした記事を発信します。来月もお楽しみに!

(京都大学 文学部 池垣早苗)

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