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YouTubeにお坊さんバンド?!知恩院ってどんなお寺?

皆さんは「お寺」と聞くとどのようなイメージを思い浮かべるでしょう。
中高生や大学生の私たちには身近な存在だとは言いにくいかもしれません。
しかし、そんなお寺が「YouTubeをやっている」「バンドを結成している」としたらどう思いますか?

実は、そんなお寺が京都にあるんです!その場所は京都市東山区にある「知恩院」。
私はYouTubeを見てこのことを知り、「現代の流行を取り入れた知恩院とはどんなお寺なの?」と興味深く感じ、知恩院の職員で編集や広報を担当されている池口龍法さんにお話を伺いました。

知恩院のYouTubeチャンネル


(2020年宣伝動画の撮影風景)

知恩院は公式YouTubeチャンネルを開設して、秋のライトアップの宣伝動画や年間行事の紹介、そして知恩院で聞くことができる音をASMR(聞いて気持ち良いと感じる音や感覚のこと)として発信しています。
まずはYouTubeのことについて伺いました。

――どうしてYouTubeチャンネルを開設しようと思ったのですか?

今までお寺と言えばご年配の檀家さん(一定のお寺に属して仏事を依頼し、布施と呼ばれる謝礼を渡してそのお寺を援助する家や人)が集まる場所というイメージを持たれていたように思います。しかし、ライトアップのような若い人たち対象のイベントでは、若い人たちが見ているであろうツールを使って広報していくことが必要だろうと思いました。そこでYouTubeチャンネルを作ってPRしてきたという感じです。

――宣伝動画の構成もみなさんですべて考えていらっしゃるのですか?

外部のクリエイターの方々にお願いしている部分もありますが、「お坊さんと出会ってほしい」というコンセプトや、「お坊さんにフューチャーしたような動画を作りたい」など、ディレクションは私たちがしています。

サウンドセラピー動画

YouTubeにはASMR動画として10本ほど、知恩院で聞くことのできる「音」を公開しています。砂利道をお坊さんが歩く音、念仏と木魚の音、鴬張りの廊下を歩く音などなど。自然の音で心が浄化されるような気分になりますし、ほっと一息つきたいと思う時におすすめの動画です。そんなサウンドセラピー動画について伺いました。


(法要という仏教の儀式のサウンドセラピー動画を撮影している風景です。右上に見える黒い人の顔、これが高性能のマイク。よりきれいに音を録ることができます。)

――サウンドセラピー動画を作るきっかけはどんなことだったのですか?

国宝の御影堂(みえいどう)の修理工事が今年終わったことがきっかけです。知恩院の中で一番中心となるお堂で9年かけて工事を行っていたのが、2020年4月にようやく再び見ていただける準備が整いました。2020年は、日本文化のいろんな技術が集まったお堂を見てもらい、日本文化をより好きになってもらえるきっかけの年にしていきたいという思いがあります。そこで、注目できるところとして知恩院の「音」というのはおもしろいんじゃないかと思い、音にフィーチャーした動画を撮っていきました。

――現在10本の動画が公開されていますが、「音」はどのようにして選んだのですか?

僕らはお寺の音に慣れ過ぎているので(笑)。「こういう音良いよね!」っていうのは、外部のクリエイターの方々にご提案いただきました。もちろん「この音は入れたい」という提案もしましたよ。

――動画撮影で印象に残っていることはありますか?

朝のすがすがしい景色を撮るために早朝からロケをするなど、一番良い状態の景色、音を届けようとシビアになっていました。
また、ASMRを撮影するのは初めてでしたが、業者さんが人間の頭の形をしたマイクを持ってきてくださって……。そういうものが境内にあるというのは不思議な光景でした(笑)。でもマイクのおかげで耳元の音を再現しやすくなり、実際に聞いている音に近くなるなどいろいろ勉強になりました。

お坊さんバンド「ぽくぽくすまいる」

(写真は2019年秋のライトアップでのライブパフォーマンスの様子)

次に知恩院で毎年行われている秋のライトアップに出演しているお坊さんバンド「ぽくぽくすまいる」についてお話を伺いました。

――「ぽくぽくすまいる」結成の経緯を教えてください。

日頃からお坊さんに親しみを持ってもらうにはどうしたらよいか話をしている中で、「普段のお経をあげている姿を見ていただくだけではなく、自分たちならではのおもてなしをしたいね」という意見がでました。
ギター、ベース、ドラムをやっていた職員がいたこともあって、秋のライトアップで三門下(三門…お寺の入り口にある門)をステージに見立て、ライブをすると喜んでもらえるかな、盛り上がってもらえるかなと思い、バンドを結成しました。
日頃から3人でバンド活動をしていたわけではありませんが、お坊さんが楽器を持って歌うことで“伝えられる何か”があると思ったんです。
例えばウルフルズの「明日があるさ」は明日への祈りみたいな独特のニュアンスが込められるんです。知恩院という場所で、お坊さんが「明日があるよ」って歌うとなんだか前向きな気持ちになれると思いませんか?

――「ぽくぽくすまいる」の名前の由来は何ですか?

浄土宗はお念仏の教えが一番大切で、浄土宗の総本山である知恩院は昔からお念仏の道場であると言われてきました。そしてそのお念仏をするときには木魚をたたくというのが浄土宗のお念仏の仕方です。
そこで、知恩院に来たらお念仏の声と「ぽくぽく」っていう木魚の音を聴いてほっこりし、笑顔(スマイル)で帰ってほしいという想いから「ぽくぽくすまいる」になりました。

ほっこりするような響きの名前なので、バンド紹介の時に「ぽくぽくすまいるです!」と言うと笑いが起こります(笑)。

ライトアップ宣伝動画~これまでの道のり~

続いてYouTubeの話題に戻り、ライトアップの宣伝動画に込められた思いや制作に至るまでのお話を伺いました。

――2017年から作られている秋のライトアップの宣伝動画についてお話を聞かせてください。

企画に対する想いをお坊さん自らが語った方が良いと思ったので、初めに「企画編」というタイトルでお坊さんがライトアップについて会議を行っている動画を作りました。次に、本気でライトアップを盛り上げようと多くの人が関わっている、ということをどうしても伝えたくて「撮影風景編」を撮りました。
(この年の動画で、お坊さんが歌っている曲があるのですが、この歌詞は池口さんが作詞作曲したそうです!!ぜひこちらをご覧ください↓)


(「企画編」。今年のライトアップについて会議を開いているシーンです。)

――2018年は爽やかなお坊さんの紹介動画でしたよね。

「ぽくぽくすまいる」のメンバーのことをもっと知っていただき、お坊さんにより親しみを持ってもらうために作りました。やっぱりお坊さんってまだまだ遠い存在だと思われているので、本当に身近な存在なんだって思ってもらいたいですね。


(若いお坊さん達を紹介する動画。お坊さんの趣味など普段の過ごし方について知ることができます。)

――2019年は浄土系フェスを開催されましたね。「南無&ピースな浄土系フェス」というキャッチフレーズを見た時はびっくりしました!

最終的に「南無&ピース」が良いんじゃないかと言ったのは僕だと思います。厳密に言うとSNSなどで言っている人がいて、それを使わせてもらったので100%考えたわけではないのですが。
「知恩院がこんなこと言ってるよ!」っていうギャップ感でSNSで話題になることは意識していますし、リサーチするようにしています。
2019年はラップで法話を説明していますが、仏教の教えというのは日常の中にあるので、リズムに乗っているうちに気が付けば仏教の世界に入っていたと体感してもらえると良いかなと思いました。

――2020年の宣伝動画は新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、発信内容に変化がでているのでしょうか?

そうですね。今年は、御影堂でお念仏と仏教の教えを聞いていただく時間を中心にしています。特に今年は知恩院が一番大事にしている御影堂をようやく皆さんに見てもらえるので。やるかやらないかの議論はあったんですが、ポスター1枚では伝えることができない「こういう時期だからこそやりたい!」という想いを1本目の動画にしました。
2本目の動画は、御影堂の魅力を伝えるものにしました。遠方からだと知恩院にお参りに来られない方も多いですし、自粛を続けなければならない時期でもあるので、動画でその魅力を知ってもらおうと作りました。


(2020年宣伝動画の撮影風景。感染症対策について説明されています。)

このような取り組みを振り返って

――現代の流行を取り入れた活動を通して、周りからの反応や知恩院さんの中で何か変化したことはありますか?

ライトアップの時期に攻めた試みを行っていることもあり、毎年知恩院のライトアップは何をするんだろうと興味を持ってくださっている方がいて、さらに幅広い年齢層の方が楽しみにしてくださっています。知恩院の中でも、「知恩院のライトアップって何なのだろう」と関心の持ち方が深くなってきているのは良い変化かなと思います。


(2019年秋のライトアップの様子)

ただ、お坊さんがバンド活動をするのは良いのかという声はありますね。これまで作ったポスターの中には激しいビジュアルのものもあるので、本山の品格にふさわしくないのではないかと言われたことも。

しかし、知恩院としてはお寺に来て紅葉を愛でるだけではなく、できれば手を合わせて欲しい、お坊さんと出会ってほしいという思いがあります。
だから、「何だろうこれ!」ってどうしても気になってしまうビジュアルでまずは注目してもらい、「お坊さんに会いに来てほしい」という想いをきちんと伝えるアプローチをしていくのは決して間違ったことではないと思っています。今後も攻め過ぎない程度にやっていきたいですね。


(2019年秋のライトアップの様子)

――最後に参拝者の方へ向けてメッセージをお願いします

これからも厳しい状況が続きますが、知恩院では感染症対策を取りながら常に参拝者の方々をお迎えしています。辛いときにお念仏を唱え、手を合わせて祈る、拝む。そうすることで少しでも心の平静を保ってほしい、元気をもらってほしいという思いで知恩院は存在し続けています。

祈る場所がある、手を合わせる場所があるというのはとても助けになります。

知恩院に来ていただける方もそうでない方も、私たちがそういう想いを持っているんだということを少しでも知っていただき、気持ちを軽くして生きていただきたいなと思います。

取材を終えて

池口さんのお話を聞いて、知恩院の皆さんがお寺に来てお坊さんに会ってほしい、手を合わせてほしいという思いを大切にしていらっしゃることがとてもよくわかりました。
また、新しい形を取り入れて時代の波に乗りながらも、常にお寺本来の役割を忘れずに取り組まれているのだということを実感しました。

お寺というと、どうしても遠い存在に感じたり、私たちの世代では特にお坊さんのことをよく知らない人も多いかもしれません。しかし、知恩院さんの動画を見ると、その考えは変わるはず。

この記事を読んでいただいた方には知恩院さんのYouTubeチャンネルも見ていただきたいです。

〇知恩院公式YouTubeチャンネルはこちら↓
(2) 知恩院公式チャンネル – YouTube

(取材・文:同志社女子大学 現代社会学部 石黒裕理)
(取材協力:同志社大学 法学部 石井魁人)
(写真提供:知恩院様)

 

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