インタビュー

「実は、京都について述べるのは苦手です」:森見登美彦さんインタビュー(後編)

「実は、京都について述べるのは苦手です」:森見登美彦さんインタビュー(後編)
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前編に引き続き、森見登美彦さんへのインタビュー記事です!
(前編はコチラ→https://kotocollege.jp/archives/4547

今回は「小説家としての森見登美彦さん」にスポットを当てて、小説家のお仕事などについて伺いました。

 

実は、京都について述べるのは苦手です。

――そもそも小説を書き始めたきっかけは?

森見さん:小学生の頃に、クラスで紙芝居を作る時間があったんですよ。その文章を僕が担当して、その時にお話を文章で書くのは面白いなと思いました。母親が読書好きで、僕が物を書くのが好きとわかると、原稿用紙とかを買い与えてくれて。だから、小説を書くようになったのは母親の影響、あるいは教育が大きいですね。小学生から中学生にかけては、母親へのクリスマスプレゼントに小説を書いてあげたりもしていました。お話を書いて母親に喜んでもらいたいって気持ちもありましたね。始まりは素朴な感じでした。

――他の道を志すことはなかったんですか?

森見さん:そうですね。小学2年生まではロボットを作る博士になりたかったんです。それはそれで良いなと思いますけどね。小学3年生の時の紙芝居から夢が小説家になっちゃって、その後はずっと変わりません。

――他の作家に影響されて、というわけではなかったんですね。

森見さん:ほかの作家を意識するような年齢ではなかったですから。まぁ年齢が上がると色々邪念が入ってくるので(笑)。「こんな作品読んだ方がいいんじゃないか」とか「あんな風に書かなくてはいけないんじゃないか」とか。だから高校生、大学生の頃は色んなものを読んだし、気取ったものを書いたりしていましたね。そんなふうになるまでは思うがままに書いていたかなぁ。そんなに読書家でもなかったので。

――自分の身の回りを舞台に小説を書こうと思った理由は何ですか?

森見さん:僕は小説を考える時、身近な所から発想するんです。自分が常日頃暮らしていて、あれこれ妄想することを集めていって、ひとつの世界を作るので。自分が生きている馴染みのある世界から離れた小説が書きにくくて、自分が毎日暮らしているところに立脚していないと小説が書けないんです。だから、2回生頃までは生まれ育った奈良の郊外を舞台に書いていました。京都を舞台に書き始めたのは4回生や5回生からですね。『太陽の塔』がほとんど初めてなんじゃないかな、京都を舞台に書いた作品としては。

――「京都」という街を舞台にする時、どういった点が特徴的だと感じますか?

森見さん:「京都の良いところは何でしょう?」みたいな質問はよくされます。まるで僕が京都に詳しいかのように(笑)。でも実は、京都について述べるのは苦手です。小説を書く際に関して言えば、自分の見た京都から妄想したことばかりを書いているわけですから。それは僕の京都であって、京都を客観的に表現することはできません。僕に見えていない、僕の心に入ってこないものは、小説にも出てこないという風になっているんですよね。つまり、僕が書く京都は僕の中に勝手に出来ている“偽京都”ということになってしまうので、「森見さんの本を読んで京都に憧れました」などと言われると、いつも罪深く感じています…。

 

書いていると、頭の中に小説のための領域が出来てくる。

「実は、京都について述べるのは苦手です」:森見登美彦さんインタビュー(後編)

――小説家のお仕事のスタートからゴールってどういったものなんですか?

森見さん:2003年にデビューしてもう14年になりますけど、未だにそれはよくわかっていないです。僕の場合は結構行き当たりばったりですね。書いている時に発想が浮かんだりもするので、書きながらつじつまを合わせていく感じです。一番集中できるのはその小説を書いている時なので、書き始める前の段階で「この小説はこうあるべきだ」というのを決めるのは、あんまり良くない。自分がまだ小説の世界に入り込めていないんですよね。そういう意味でも、自分の身の回りを舞台にしているんだと思います。遠くの全然知らない世界を書くとなると、どうしても事前準備が必要になってくるので。

――執筆活動以外に小説家としてどのようなお仕事をされていますか?

森見さん:なんやろ…。こういった取材をお受けするのも仕事ですし、もちろん編集者とのやり取りも仕事です。自分の作品が映像化されたりするときに脚本や絵コンテをチェックしたり、その作品のイベントに参加したり、アフレコに挨拶に行ったりっていうのも仕事に含めれば、割に「雑用」は多い。直木賞、落ちるのに選考結果を待ったりしなければいけないし(笑)。ただ僕の作品の場合、妄想が中心なので取材や資料集めは他の作家さんに比べてそこまで多くはないです。でも、小説家の仕事の境目って難しいですね。仕事していないようでしていたり、しているようでしていなかったり。

――作品に身の回りのことを取り入れるので、日常からそういったことを意識されますよね。

森見さん:そうですね。でも僕の日常なんて淡々としていますけどね。小説を書いている時ってそのことを常に頭の片隅に置いていて、机に向かって書いていなくても何となくその小説に関連したものを探している状態になっていくんです。その小説の世界がハッキリしてきて、頭の中にそのための領域が出来ていく。でもずっとあるわけではないので、消えないように毎日書いて常に領域を作っておく。経験上、書き始めて3日くらいですかね。一度その領域ができると、日常で起こる小説に役立ちそうなものが、勝手にどんどん飛びこんでくる感じ。だから事前に計画すると面白くないし、日々ぐうたらすることも仕事ではあるかなって(笑)。例えば明日、妻が何かヒントになる一言をくれるかもしれないし。

――小説家として何か苦労したことはありますか?

森見さん:『太陽の塔』を書いた時に自分の学生時代のエピソードを全部使っちゃったので、もう大学生の話は書けないと思ったんです。でも編集者には書けと言われる。じゃあどうするかってなった時に「大学生」に「平行世界」の要素を足して『四畳半神話大系』を書きました。それでまだ大学生モノで行けるかもと思い、「近代文学」の要素を足して『新釈 走れメロス』を書き、男子学生の一人語りはもう飽きたと思って「乙女」の語りを入れて『夜は短し歩けよ乙女』を書き、もう「大学生」は限界だとなって「狸」を出して『有頂天家族』を書いて…という感じで、毎回苦し紛れに考えていく。それが一番の苦労かもしれないです。もう限界なんですよ毎回。「京都」だって、もうしゃぶりつくしてて…。何を持ってくれば延命できるか、それを見つけるのが大変です(笑)。

 

4月から作品の映像化が続きますが…

「実は、京都について述べるのは苦手です」:森見登美彦さんインタビュー(後編)

――ご自身の作品が映像化・舞台化されることに対するお気持ちは?

森見さん:僕は本当に幸運で、みなさん作品を大事にしてくれていると思います。僕の小説を子とすると、映像化・舞台化された作品は孫みたいなものですね。企画の提案をいただいた段階ではかなりこだわりますが、制作すると決まってからは僕の方から口を出すことはあまりないです。質問に答えたり、脚本をチェックしたりはしますけど。監督が僕の小説をどう読んだのかが映像や舞台に反映されているので、そうあるべきだと思います。

――『有頂天家族』が京都特別親善大使に就任したご感想は?

「実は、京都について述べるのは苦手です」:森見登美彦さんインタビュー(後編)
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族2」製作委員会

森見さん:やっぱりアニメの力だと思います。小説だと「言葉」だけなので難しいでしょう。でもやっぱり少し罪悪感がありますね。サイン会などでも、僕の小説を読んで京都を訪れたとか、京都の大学に進学したという人にお会いすることは多いですけど、その度に心が痛むというか。さっきも言ったように、小説の中の京都は僕の妄想の京都なので、その人が本当に期待しているものが見られたかどうかはその人次第で…。いつもドキドキしますね。

――僕を含め、周りにもそういう人は多いです!

森見さん:京都は学生さんが多いですもんね。京都在住の学生さんが僕の小説を読んでいる確率も高いと思いますし、でもそういった人たちからいつかしっぺ返しが来るんじゃないかとも思います(笑)。怖い!あくまで参考資料として読んでほしいですね。

――京大界隈の学生は特に馴染み深いのではないかと思います。

森見さん:そうですね。京大とか恥ずかしくて行けないというか。僕の小説を読んで、京大生はどう思ってるんだろうって考えちゃいますね。自分が京大生なら「なんだアイツは」と思いますよ。その気持ちはよく分かる。どうも複雑な気持ちになるので、京大の近くを通るときはやっぱりドキドキします。

 

最後に…

――最後に、全国の中高生に向けてメッセージをお願いします。

森見さん:中高生の頃に思う進路って、まっすぐにちゃんと道があるように思うんですよ。でも実際はぐにゃぐにゃですからね。僕が小説を書いているときも、最初に思い描いていたものとは全く違うところに行きつくことがしばしばです。でも、書きながら見つけたものが正しいと、いつも思います。小説も人生もそういう感じです。まっすぐな道なんてどこにもなくて、ホントにぐにゃぐにゃです。
僕は学生の頃、宝ヶ池の自動車教習所に通っていたんですけど、そこの教官に「お前、今タイヤどっち向いてんねん。ちょっと動かせ。そしたら今タイヤがどっち向いてるかわかるやろ」と言われて、それがすごく心に残っています。じっとしていたら、自分が今どっちに向いているのかもわからないと思うので。とはいえ、いきなりアクセルを目一杯踏みこまなくていいんですよ。少しだけ動いて、自分のタイヤがどっちを向いているのかを確認しながら進む。たとえ道がぐにゃぐにゃに曲がっていても、自分に合った走りをしていけばいいだけです。この道を行かなければいけないっていうのを決めると、まあしんどい!大事なのは道の方ではなくて、自分のタイヤがどちらを向いているかです。進路をまっすぐなドライブウェイと思わず、デコボコの道を少しずつ、その場その場で判断して進んでいくのが大事だと思います。

「実は、京都について述べるのは苦手です」:森見登美彦さんインタビュー(後編)

 

取材を終えて

森見さん、インタビューへのご協力、本当にありがとうございました!
憧れの方にお会いできてとても幸せな時間でした。
森見さんはもっとドキドキしてしまうかもしれませんが、森見さんの作品を読んで、全国の中高生が京都の魅力に引きずり込まれてほしいなぁと思います(笑)。

さて、4月からは『有頂天家族 二代目の帰朝』のアニメ化作品「有頂天家族2」の放送も決定しております。そちらも要チェックです!

 

 TVアニメ「有頂天家族2」
「実は、京都について述べるのは苦手です」:森見登美彦さんインタビュー(後編)
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族2」製作委員会

 

●放送情報
KBS京都:4月10日より毎週月曜20時~
TOKYO MX:4月9日より毎週日曜22時~
サガテレビ:4月12日より毎週水曜深夜1時55分~
北日本放送:4月13日より毎週木曜深夜2時29分~
AT-X:4月10日より毎週月曜深夜0時30分~

 

●配信情報
dアニメストア:4月11日より毎週火曜日12時~

 

京都・下鴨神社、糺ノ森に暮らす下鴨家。 狸界の頭領であった今は亡き父・総一郎の血を継ぐ四兄弟たちは、 タカラヅカ命の母を囲んでそれなりに楽しく暮らしていた。
総一郎の「阿呆の血」を色濃く継いだ三男・矢三郎を中心に起こった狂乱の一夜。次期「偽右衛門」選出も、叔父・夷川早雲の策略も、そして「金曜倶楽部」との一幕も、 すべてが一陣の風と共に京の夜空に飛び去ったあの日から季節は流れ、 洛中に心地よい香が溢れる若葉の候。毛玉たちは尻の冷えを気にもせず、うごうごと動き出す。
天狗に拐かされ神通力を得た人間の美女・弁天は京を離れ、 愛弟子である弁天に恋焦がれる隠居中の大天狗・赤玉先生こと如意ヶ嶽薬師坊は、 寂しさと不機嫌を撒き散らしながら相変わらずボロアパートの万年床で、 赤玉ポートワインを啜る日々を送っていた。
そんな折、赤玉先生の息子であり、 壮絶なる親子喧嘩の末、敗北し姿を消した“二代目”が 英国紳士となって百年ぶりに帰朝を果たす。 大驚失色。驚天動地。吃驚仰天。 天狗界、そして狸界を揺るがす大ニュースは瞬く間に洛中洛外へと広がった。
京の町を舞台に、人と狸と天狗の思惑が渦巻く毛玉絵巻第二集、ついに開幕!

「面白きことは良きことなり」

 

●『有頂天家族 京巡りスタンプラリー』開催決定!
「京都特別親善大使」に就任したのを機に、「有頂天家族」のキャラクターたちが「おもしろき古都・京都」を紹介する「おもしろき古都は、良きことなり」キャンペーン。その第2弾として、京都市内の「有頂天家族」ゆかりの場所を巡って楽しめるスタンプラリーがスタートします。ご期待ください!
開催時期:2017年4月7日(金)~9月18日(月・祝)(予定)

 

【スタッフ】
◎原作:森見登美彦『有頂天家族 二代目の帰朝』(幻冬舎)  ◎キャラクター原案:久米田康治
◎監督:吉原正行  ◎シリーズ構成:檜垣亮  ◎キャラクターデザイン・総作画監督:川面恒介
◎美術監督:竹田悠介・岡本春美  ◎撮影監督:並木智  ◎色彩設計:井上佳津枝
◎3D 監督:小川耕平  ◎編集:高橋歩  ◎音響監督:明田川仁  ◎音楽:藤澤慶昌
◎オープニング主題歌:milktub  ◎エンディング主題歌:fhána
◎音楽制作:ランティス  ◎アニメーション制作:P.A.WORKS  ◎製作:「有頂天家族2」製作委員会

 

【キャスト】
矢三郎:櫻井孝宏  矢一郎:諏訪部順一  矢二郎:吉野裕行  矢四郎:中原麻衣
弁天:能登麻美子  母(桃仙):井上喜久子  赤玉先生:梅津秀行  金閣:西地修哉  銀閣:畠山航輔  海星:佐倉綾音  淀川教授:樋口武彦
(「有頂天家族2」から新しく登場するキャラクター)
二代目:間島淳司  玉瀾:日笠陽子  呉一郎:中村悠一  天満屋:島田敏

 

「有頂天家族2」公式サイト http://www.uchoten2-anime.com
公式ツイッターアカウント https://twitter.com/Uchoten2_Anime
公式ハッシュタグ #有頂天

 

(執筆:龍谷大学 経済学部 井上祐希)
(インタビュー:同志社大学 法学部 木村望)
(写真:京都産業大学 文化学部 石永路人)
(協力:京都女子大学 現代社会学部 濵本恵見)

この記事を書いた学生

かれんちゃん

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卒業生が執筆した記事はかれんが紹介しているよ!