インタビュー

音楽がつないだウクライナと私たち ― ウクライナ国立歌劇場公演を取材して ―

音楽がつないだウクライナと私たち ― ウクライナ国立歌劇場公演を取材して ―
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2026 年 1 月 15 日、京都コンサートホールで行われたウクライナ国立歌劇場管弦楽団・合唱団「第九&運命」の公演を取材しました。取材前の私は、ウクライナで起きている戦争について、ニュースでは知っているものの、どこか遠い国の出来事として捉えていたように思います。

しかし、この公演を通して、戦争や平和が一気に身近なものとして感じられるようになりました。

公演前:ウクライナ国立バレエ芸術監督、寺田宜弘氏からのあいさつ

ウクライナ国立歌劇場とは

 ウクライナ国立歌劇場は、バレエ団・オペラ・オーケストラ・合唱団で構成される、ウクライナを代表する国立歌劇場です。これまで日本とウクライナの間では、長年にわたり芸術交流が続けられてきました。今回取材に応じてくださった公演を招聘している株式会社光藍社の広報、薮谷みちえさんによると、2006年にキエフ・オペラ(現ウクライナ国立歌劇場オペラ)が初来日し、翌2007年からはキエフ・バレエ(現ウクライナ国立バレエ)の公演をほぼ毎年行っているそうです。コロナ禍や戦争という困難な状況の中でも、芸術を広めたいという強い思いのもと、公演が続けられてきました。

ウクライナ国立歌劇場管弦楽団とウクライナ国立歌劇場合唱団

プログラムに込められた「意味」と「平和」について

今回の公演で演奏された曲目は、以下の2曲でした。

・ベートーヴェン  交響曲第5番「運命」 ハ短調 作品67

・ベートーヴェン  交響曲第9番「合唱付き」 ニ短調 作品125

一曲目の「運命」は、冒頭のフレーズをどこかで聞いたことがある、という方も多いのではないでしょうか。私自身も、演奏が始まった瞬間に「あ、この曲だ」と思わず感じました。重く、はっきりとした音が続き、自然と耳が引きつけられるような印象でした。二曲目は合唱付きだったこともあり、会場の雰囲気が一気に変わりました。オーケストラの音に合唱が重なり、ホール全体が音に包まれるような、強い迫力を感じました。音楽に詳しくなくても、「すごい」と素直に感じられました。すべての曲が終わったあと、特に印象に残った光景がありました。前方の席で、ウクライナ国旗を手に、最後まで拍手を送り続ける日本の観客の姿です。拍手のたびに旗を振り、演奏者を称えるその姿を見て、胸が熱くなりました。戦争は遠い国の出来事として忘れがちですが、この時、日本にいながら平和について深く考えさせられました。

終演後:指揮者・オーケストラ・歌手ソリスト・合唱団、熱演に拍手を送る観客

戦争下でもウクライナ国立歌劇場は活動を続けていました。どのような状況だったかを伺いました。

2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、多くの芸術団員が国外へ避難し、ウクライナ国立歌劇場も一時的に閉鎖される事態となったそうです。しかし、同年秋には公演活動が再開され、戦時下でも芸術活動を続ける姿勢が示されたとのことです。これは、文化活動を通じて「戦争下でも芸術を広めたい、私たちは生きている」というメッセージを国内外に示す強い意志があったといいます。

会場で感じた、音楽以外のつながり

 会場のロビーには、公演プログラムのほかウクライナの民芸品や音楽関係の雑貨を扱う特設販売スペースも設けられていました。実際に手に取って見ることで、ウクライナの文化や人々の暮らしをより身近に感じることができました。

また今回の公演は、日本人として初めてウクライナの国立劇場で要職に就いた京都出身のウクライナ国立バレエ芸術監督・寺田宜弘氏の母で、両国の芸術推進に生涯を捧げた高尾美智子先生(寺田バレエ・アートスクール校長)の追悼公演も兼ねていて、関連の展示も行われていました。高尾先生は、日本とウクライナのバレエ界を長年つないでこられた方です。写真とともに紹介された展示からは、芸術を通じて築かれてきた深い絆が伝わってきました。

ロビー展示:日本とウクライナのバレエ芸術の交流を推進した高尾先生を追悼

若い世代にこそ触れてほしい

また、今回の公演では、U25チケットも用意され、学生や若い世代も足を運びやすい工夫がされていました。主催の光藍社によると、「若い時に一度でも本場の芸術に触れてほしい。その機会を提供していきたい。」との思いがあるそうです。クラシック音楽にあまり馴染みがなかった私自身も、この公演を通して、音楽が世界や社会とつながるきっかけになることを実感しました。

今回のオーケストラ公演を、どのような人に知ってもらいたいかも伺いました。

「普段クラシック音楽に触れない方や、音楽にあまり馴染みのない方にもご来場いただければと思っています。ウクライナの状況に関心を持ってご来場された方も、本日の演奏でクラシック音楽に魅力を感じて、多くの舞台に行きたいと思っていただけたら幸いです。また、若い世代の方に、ぜひ生で体験する舞台芸術の迫力を知っていただければ嬉しいです。若い頃に本場の芸術に触れる経験があると、大人になってからの文化への向き合い方が大きく変わる事もあります。そのきっかけを提供できればと思っています。」

ウクライナの首都キーウの中心に建つウクライナ国立歌劇場

おわりに

これまで私にとって、戦争はニュースの中にある「遠い国の出来事」でした。しかし、演奏を聴き、合唱の迫力に圧倒され、国旗を振って拍手を送る観客の姿を目にしたことで、ウクライナの出来事は確かに自分のいる場所とつながっているのだと感じました。学生の今だからこそ、こうした公演に足を運び、世界で起きていることを自分の目と心で受け止めることに意味があるのではないでしょうか。ウクライナ国立歌劇場の日本での公演が、私と同じようにウクライナで起きている戦争についてよく知らなかった人にとって、平和や世界について考えるきっかけになればと深く思いました。

写真提供:光藍社(KORANSHA)

■「ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)」の公演が、夏に開催されるとのことです。

ウクライナから、20名のバレエダンサーたちが来日

公演の最新情報は、光藍社のホームページ、LINEほかSNSにて公開中

光藍社チケットセンター 050-3776-6184 (平日12-16時)

「ウクライナ国立バレエ スペシャル・セレクション2026」:7/24 NHK大阪ホールほか

(※夏のバレエ・ガラ公演は録音音源となります)

(龍谷大学 社会学部 武居美伶)

この記事を書いた学生

武居 美伶

武居 美伶

龍谷大学 社会学部社会学科

山口県出身のみれいです。
人にインタビューするのが好きです!よろしくお願いします!!