本場の味と文化を届けたい!台湾料理屋『9區』の大学生シェフにインタビュー
みなさん、こんにちは。
就職活動を終え、卒業まで残り半年を切りました。
入学した頃を思い出しながら過ごしていた8月、筆者の元に高校時代の同級生からある連絡が。
「最近、台湾料理屋を始めて……。」
え、台湾料理!?
すごい!これはお話を聞きたい!
ということで今回は、期間限定で営業している台湾料理屋『9區(キューク)』のメインシェフ、同志社大学社会学部の藤井太地さん(以下、藤井)と、宣伝と調理を務める同志社大学社会学部の北條瞳子さん(以下、北條)にお話を伺いました!
藤井さんの地元である台湾への思いはもちろん、お二人の卒業前の大きな挑戦について、たっぷりとお話をお聞きしました。
それでは、インタビュースタートです!
もくじ
地元の味を届けたい
――それではよろしくお願いします!
藤井・北條:お願いします!
――では、最初に台湾料理屋さんをはじめた理由について教えてもらってもいいですか?
藤井:うーん、はっきり言ってしまうと「なんとなく」なんです(笑)。
僕は中学3年生までずっと台湾に住んでいて、高校生の時は長期休暇の時期に実家のある台湾に帰っていたんですけど、コロナ禍の3年間は帰省することができなくて。そんな自分の実家を再現するために最初は自分で適当に家で台湾料理を作っていたんです。そうやって自分で作っていく中で、自分が知っている台湾料理があまり日本にないということに気がついたんです。最初は友達に作った料理を出したりしていたんですけど、そこから今に至ったって感じですね。
――行動力がすごいですね……!
藤井:いやいや、そんな(笑)。
でもやりたいなと思っていたんです。だから就職活動が終わったら、暇な時間にやろうと思っていて。
北條:2人とも飲食店のアルバイトをずっとしていて……。
藤井:お店をやってみたいなという思いがあって、これを機にやってみようかなと。
――あれ、来年の4月からは就職するんですか?
藤井:就職します!(笑)
北條:飲食と関係ない業種に就職する予定です(笑)。
来年の1、2月が集大成って感じになるかな。
――実際、お店を始めて一番大変だったことは何ですか?
藤井:2人で回すということが大変でした。初日は、結構身内が来てくれて満席になったんですけど、どうしても追いつかなかったり。
北條:提供スピードが遅くなったこともありましたね。
藤井:アルバイトとしてはずっとやっていたけど、その時は料理を作る側ではなかったので。作って、さらに提供までするとなるとこんなにも大変なんだなと思いました。そこから経営者目線で考えられるようになったなあと思います。
北條:あとアルバイトのありがたみを感じました(笑)。実際経営者側に立ってみるとアルバイトの存在の大切さに気がつきましたね。今アルバイトを雇いたいくらいです!
――私も飲食店のアルバイト経験があるんですけど、そういう気づきもあったんですね。
北條:実際飲食店でアルバイトしていた時は、お客さんがたくさんいらっしゃると忙しくて、疲れてしまうことも多かったんです。自分でお店を開いてからは「どんなに忙しくなってもいいから1人でも多くのお客さんが来てほしい」と思えるように変わっていって。
私はSNSの運営をメインでやっているんですけど、「どうやったら知ってもらえるかな」と考える目線が変わっていきました。そうやって自分自身にもいい影響が出たなと思います。
藤井:自分のアルバイト先の店長が忙しいとお昼ご飯も食べずにずっと仕事していて、アルバイト目線からお昼ご飯食べればいいのにって思っていたんです。でもオープン初日、忙しすぎて自分もお腹空いていたことさえも忘れて(笑)。その時に、店をやる側の目線に立つことができたなと思いました。
北條:アルバイト以上の社会勉強をさせてもらっています(笑)。
――では大変だったこととは逆に、やりがいを感じた瞬間や嬉しかったことはそれぞれありますか?
藤井:僕は、いろいろな人が来てくれるのは嬉しいですね。どうしても身内ごとにはなってしまうんですけど、高校時代の友人がSNSを見て来てくれたり、中学時代の人も来てくれたりとか、久々の出会いがあって。あとは昼間に身内以外でフラッときてくれる方もいるし、借りているシェアキッチンの常連さんだったり、テイクアウトで注文してくれたり。
あと一緒に台湾に旅行に行った高校時代の友人が、僕が作った料理を食べて「懐かしい」と言ってくれたのが本当に嬉しくて!「美味しい」も嬉しいんですけど、本場の味を提供したいという自分の思いが叶ったなと思います。
北條:私は、フラッとお店に来てくださった1人の方が、注文した牛肉麺をスープ一滴も残さず食べてくれて、「美味しかったわ」と言って帰っていったことです。それは結構思い出に残っていて嬉しかったですね。
あと何度も友人が足を運んでくれることですかね。やはり1回目は「友達だから」という理由でみんな来てくれると思うんですけど、2回目以降も来てくれると「美味しかったから来てくれたんかな」と思って!
――確かに私も同じ学科や同じ高校出身の人たちが行っているのをSNSで見かけました!
藤井:こうやっていろんな人たちに伝わっているのは嬉しいですね。
お店を始めて気づく台湾の魅力
――次にお店の名前について深掘りしたいんですけど…….。店名『9區(キューク)』にどんな思いが込められていますか?
藤井:僕自身、お酒が好きで。台湾のハイボールの存在を成人してから初めて知って、こういうものをお店で提供したいなという考えから、お店で台湾のお酒も出すというのがテーマの一つでもありました。その思いもあって、最初は中国語で“バー”という意味の“酒吧(ヂゥパァー)”にしようと思っていたんです。それでいろいろ考えていると、“酒(ヂゥ)”の発音が中国語の“9”の発音と一緒なんです。それで数字の9にお酒の意味を込めました。
そして「お酒を楽しめる場所」という理由で、“吧”ではなくて、地区という意味がある“區”を使って店名を決めました。
北條:数字を使ったり、文字を2文字にした方がキャッチーで呼びやすいかなという考えもありましたね。長い店名だと略称を考えないといけない。お客さんに略称を作ってもらうよりは、短い方が覚えやすいかなと思ってつけました。
――お店のロゴデザインもおしゃれですよね。
藤井:台湾の公用語である中国語での“區”は、匚に品って書くんです。その品の部分を氷に見立てているんです。
北條:これは全部私がパワーポイントで作ったんですよ(笑)。9の部分は自分が求めていたフォントが見つからなくて、四角と棒の素材を使って……。
――すごい!
北條:ロゴマークが入っているショップカードとシールがあるんですけど、素材もこだわりました。ショップカードはお財布に入れたら他のカードや紙類と同じになってしまうから、差別化を図るために少しざらっとした素材にしたり、シールはテイクアウト用なので、撥水素材にしたり。
あとはスマホケースに挟んだ時にかっこよく見えるようなデザインにしましたね。
――確かに唯一無二のデザインだし、かっこいいですね!
北條:私はデザインについては全く知らない状態から始めたので、試行錯誤しながら作りましたね。
――今回取材するにあたって9區のSNSを何度か拝見していた中で、実際台湾に行って台湾料理や台湾のお酒について勉強したという投稿を見ました。そんな台湾滞在中に得たものはありましたか?
藤井:そうですね……。自分の勝手なイメージでウイスキーって寒い場所でしか作れないと思っていたんです。でも台湾でも美味しいウイスキーが作れるというのを、蒸留所の見学に行ってから知って、実際行ったことで歴史を知ることもできました。すごく台湾を誇らしく思いましたね(笑)。
北條:私はずっと大阪に住んでいたので、“台湾料理はこういうもの”というのを想像するしかなかったんです。でも実際現地に行ってみるといろいろな驚きがありました。例えば、日本のホテルのビュッフェにカレーが置いてあるみたいに、台湾のホテルには滷肉飯(ルーローハン)が置いてあったりするんです。それだけ台湾の人にとって身近な食べ物なんだということを知りました。普通に旅行するのと、お店をしながら台湾に行くのは見方が変わって勉強にもなりましたね。
あとはメジャーな食べ物しか知らなかったんですけど、地域によって食べ物も生産物も景色も違ってそれも勉強になりましたね。
藤井:確かに僕もお店を始めてから、普通に実家へ帰省していた時と視点が変わりましたね。意識も大きく変わりました。
――実際台湾に行って現地の物を食べたり、文化に触れてきたりした中で、調理をする際に取り入れたことや逆に日本人に合うように変えようとしたことってありますか?
藤井:できるだけ現地の味で勝負できるかなと思ったので、できるだけ台湾の味付けを忠実に再現して調理しています。
北條:ただ盛り付けは日本人向けにしていますね。例えば滷肉飯だったら、台湾ではローカルフードってこともあって、少し雑に盛り付けられていることも多いんです。でもせっかく貸してもらっているシェアキッチンが綺麗なところなので、綺麗に盛り付けた方がいいかなと思って、盛り付けは考えています。
藤井:メニューの牛肉麺は、台湾の台中という場所にある有名なお店まで行って、お店の方にどんなお肉を使っているのか、どれくらい煮込んでいるのか、どういうスパイスを入れているのかを聞いて、何度も試作を重ねたものを出しています。
北條:最初に作っていたものと比べて、台湾で実際に食べに行ってから作ったものは味が大きく変わったと思います。
――現地の味を届けたいという思いが伝わってきます。
北條:水餃子は生地から手作りなんです。生地をめん棒で伸ばして、丸い形に型取りをして……。
藤井:どうしても台湾の餃子のモチモチ感を出すには手作りしかなかったんです。麺やお肉は、できるだけ近い食感が近いものや納得のいく味のものを探して使用しています。
――スパイスなども台湾で実際購入しているんですか?
藤井:スパイスは台湾で買った物を使用しています。そうしないと台湾らしい風味や香りがなかなか出ないんです。
北條:例えば、水餃子に使用している醤油は台湾のものを使用しているんですけど、日本と違って少しとろみがあって甘いんですよ。どうしても日本で手に入らないものは、台湾に行った際に買ってきて日本に持って帰りました。
――ちなみに一番人気のメニューとそれぞれの推しメニューは何ですか?
北條:一番人気があるのは滷肉飯ですね。多分日本人が一番知っている台湾料理だから人気があるんだと思います。
藤井:僕の推しメニューは、めっちゃ出汁に自信があるので牛肉麺ですね。
北條:私の推しメニューは……悩むなあ……。でも自分が調理を担当しているものということで、水餃子で!(笑)
助けてくれる人は沢山いる
――これから先、何か挑戦していきたいことはありますか?
北條:就職したらお店をすることができないので、お店のことではなくなりますが、SNSを使って台湾そして台中の知らない情報を、発信をできたらいいなと思います。お店がフェードアウトしても台湾のことを発信するためにできることはしていきたいなと思っています。
藤井:台湾の良さを広めていきたいと思っています。空港が台北にあるので、台北で観光する人は多いと思うんですけど、自分が住んでいた台中の良さも広められたらと思います。
――では最後に、コトカレを通じて伝えたいことや、何かに挑戦したいけど一歩踏み出せない大学生や中高生に向けて何かメッセージがあれば、お願いします。
北條:まず伝えたいことは、私たちのお店は、限られた残りの学生生活で数えられるほどしか営業できないので、私たちのことを全然知らない人でも機会を逃さずに気軽に食べに来ていただけたら嬉しいです!
何かをやり始みてみると助けてくれる人って本当にたくさんいるし、やりたいことを実現する方法もたくさんあります。「大学生が頑張っているから助けてあげたい」と思ってくれる大人の方って意外とたくさんいるので、その環境を存分に活かしてチャレンジしてほしいです。
藤井:僕たちのことを知らない人にも、もっとお店の存在が広まってくれたらいいなと思っています。日本では見ないような台湾のメジャーなメニューなどもできるだけ出すようにしているんです。少しでも気になった方は、ぜひ食べに来てくれたら嬉しいです。
さいごに
みなさん、いかがでしたか?
営業日が残り少ないですが、本場の味が楽しめる台湾料理屋『9區』。
少しでも気になった方は、ぜひお店に足を運んでみてくださいね。
そして、藤井太地さん、北條瞳子さん、素敵なお話をありがとうございました!
『9區』公式Instagram:9ku_taiwan
出店場所:CIGOTO no BA
※営業日は『9區』の公式Instagramから随時確認してください。
(取材・文:同志社大学 社会学部 成田萌)
(写真:京都女子大学 文学部 内海万知子)