「跳躍するつくり手」とは?!監修者の川上典李子さんにインタビューしてきました!
2023年3月9日から6月4日まで、京都市京セラ美術館にて特別展「跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」が開催されています。
筆者はすでに2度足を運んでおり、行くたびにとても感動しています。
先日、この展覧会の監修者である川上典李子(かわかみ のりこ)さんにお話を伺いました。
この記事では、川上さんへのインタビューをもとに、展覧会を鑑賞しているだけでは分からない魅力をお伝えします。
京都でこの展覧会を開催する意味や、監修者の川上さんをはじめとした多くの人の熱意がこもった展覧会であるということを知っていただければと思います。
もくじ
「跳躍するつくり手」とは?
―展覧会のタイトルにもなっている「跳躍するつくり手」とは、どういう意味なのでしょうか。
「跳躍する」という言葉は展覧会の開催が決まった後に決めたんですが、その意味は、今私たちと同じ時代に生き、同じ空気を吸いながらも、自分の考えを深めて、跳躍するようにこの先に目を向け、自らの視点を大切にしながら試みているものを作品として表現している。そういう作家たちの姿のことです。
30代から50代の作家に焦点を絞っていますが、いま元気な世代でもある彼らは毎日考えていて毎日進んでいて、時に悩んで戻ったりしながらも試みを止めることなく制作に向かっています。作品からは、各自の視点、ヴィジョンが浮かびあがるように伝わってきます。そんな方がたの現在形の活動を紹介したいと思ったんです。
―どうしてそういう作家さんを集めたいと思ったのでしょうか。
ちょうど展覧会の話が始まったとき、環境問題やAIの進歩など、社会の中でいろんなことが激変していたんです。
確かに便利な社会にはなっていくけど、そういう環境の中で私たちは何を考えて、どんな生活をして、どんな創造性を発揮できるのかを改めて考えないといけないと思っていたんですね。
そのためには、まずは人間がどういうことを体験してきて今に至っているかという歴史を振り返ることが重要だと思いました。
そうしていろんなことを考えていると、まさに伝統の中にある京都、そして90年の歴史がある建物を現代アートの展示室も備えた美術館にリノベーションした京都市京セラ美術館という環境が、とても適している場所だと感じました。
そして、この京都という場所で歴史を振り返りながら、私たちは未来をどういう風に作っていけるのかということを考えるきっかけになるといいなと考えました。
ですが、何かすごく難しそうな事を考えてほしいだけではなくて、まずはその作品から感じ取れるエネルギーや、作品の中から沸き上がるその作家の意思といったものを感じ取ってもらえるような作品を集めたいなと思ったのがきっかけです。
もう一つのテーマ「対話」
―作品を通して作家さんの想いを感じるというと、今回の展覧会では全ての作家さんへのインタビュー映像も展示されていますよね。作家さんのことがダイレクトに分かった気がして、とても感動しました。
インタビュー映像を展示に含むことは、初めから決めていたんです。
なぜその作品が生まれたのか、なぜその作家はその素材を選んだのか、どうしてその技法を使ったのか、それには一つずつ理由がある。それを知るきっかけのようなものは、とても重要だと思っています。
会場の説明も作品の理解を深めるためには読んでいただけると嬉しいですが、その作家の仕事の場や動作、話し方や声というのもすごく重要ですよね。しかし、それはその人のところに行かないと分からないし、話をしてみないと分からない。
私自身は展覧会のキュレーション以外にジャーナリストとしてアーティストやデザイナーの取材もしているので、その人が醸し出す空気や、向き合って話しているときの間合いとか、どんな言葉を選ぶのかっていうのが、やはりその人を理解するうえでとても重要だと思っています。
今回の展覧会のもう一つの大きなテーマは「対話」です。
作品との対話もそうだし、その作家と直接話すわけではないけれど、作家と対話するように、作品を前にしてその作家の考えを知るというのもすごく大事だと思っているんですね。そのため、インタビュー映像はぜひ作りたいと思っていました。
映像を誰に撮ってもらうかというのもすごく重要だったんです。展覧会の作家のひとりとして映像を制作してもらったのは林響太朗さんという方で、映像界で注目を集める、まさに跳躍している人物。米津玄師さんや星野源さんなど、著名なミュージシャンのミュージックビデオも手掛けている方なんです。対象とする人物の周囲の空気や光をとても繊細にとらえています。
やっぱり作品って、その作家あってのものなんです。その人だから作れる世界っていうのがあって、作品はその人が毎日考えて生活している中から生まれるものなので、その空気感を少しでも感じ取っていただきたいなと思いました。
感覚が弱くなっていませんか?
―作品を見て、感じるだけの楽しみ方でもいいとのことで、私は、芸術に関する知識が少ないまま鑑賞しているので、そう言っていただけるととても嬉しいです。
今の社会は便利になっているけれど、自分の感覚が弱っていると思いませんか。
書いてある文字をすぐにスマホで検索できるので、それで分かった気になっているけど、じっと1枚の絵に向き合う時間ってなかなかないじゃないですか。だから、きっと弱っていると思うんですよ、知覚的に。
じっと暗い中で何かを見るとか、静寂のなかで何か考えてみるとか、やっぱり意識しないとそういう環境ってないですよね。ということは、もしかすると人間は退化しているかもしれないんです。
ロジカルな思考も重要ですが、それ以前に、何かに向き合ったときに自分の身体で何を感じ取れるかというところもすごく重要だと思います。今回の展示を通して、みなさんにそういうところも気付いてもらえたらと思っています。
「なんだかよく分かんないけどすごい作品を見ちゃった」とか、「よく分かんないんだけど、この漆ってすごく光っているね」ってじっと見ちゃう。そういう展覧会があってもいいんじゃないかなって思ったんですね。「何これ!?」という驚きでもいい。思わず触りたくなるという感覚でもいいんです。今回選んだ作家たちから生まれた作品はそれぞれに魅力があり、そういう感覚を経験できることもこの展覧会の面白さになっているかと思います。
この展覧会は、二つのことを意識して作っています。これまで出合ったことのなかった作品を前にして普段は発動していない感覚や知覚が刺激されるような場を作りたいというのと、もう一つは20組のつくり手が日々、自身の身体を通して制作に向き合っている、その姿を知ってもらうこと。作品からでも説明や映像からでも、どちらから入っていただいてもいいのですが、作品とはじっくり向き合ってもらえると嬉しいです。
展覧会では解説文章を読んで頭で理解した気持ちになってしまう場面が少なくありません。そうではなく、展示と向き合って気付くことや、自分なりに発見すること。それは個々の展示の説明にはないことかもしれませんが、その時間も大事にしてほしいというのが、今回重視したところでした。
“I”→ “We”
(川上典李子さん(左))
―「対話」という点について、さらに詳しく教えてください。
GO ON(今回出展している伝統工芸の後継者たちのグループ)のみなさんは、主語は “I”じゃなくて “We”だというんですね。
その考え方はすごく面白くて、例えば桶やお茶筒にしても、自分だけで作っているわけではなくて、それが作られ始めてから今に至るまで多くの人に継承されてきた。自分はその中の一人だというんです。だからこそ、きちんと受け止め、今日から次へとよいかたちでつないでいく責任もあるし、真剣に向き合って考えないといけないという意味で、“We”というんですよね。
伝統であったり受け継がれてきた文化に考えを巡らせると、作品を見たみなさんも“We”のひとりになりますよね。展示を見て、これからどうするのかということをみんなで考えていかなければならない。そしてその時間はとても楽しいものでもあると、私は思っています。
作品を通じて始まる自分の中での対話もあるし、今回のインタビューのように、誰かと出会ったときにいろんな話が生まれて広がっていくような対話もある。そのきっかけとしての20組の作家という風に見てもらうといいと思います。
さいごに
作品を見ている私たちも「対話」に参加できる展覧会というのは、とても新しいものだと思います。そして、ここから、みんなでより良い未来について考えていけると良いなと深く感じました。
特別展「跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」は、20組もの作家の作品が集まっているにもかかわらず、とても統一感があり感動する展覧会となっています。あなたも、普段あまり使わなくなってしまったかもしれない感覚をフルに呼び起こして展示を体感し、未来を考える“We”の一人になってみませんか?
『跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー』
会期:2023年3月9日-2023年6月4日
会場:京都市京セラ美術館[ 新館 東山キューブ ]
(京都大学 理学部 鳥羽重孝)