JA京都市主催の野菜の品評会で京野菜の魅力について聞いてきた。
季節が梅雨から初夏に移ろうとする7月8日、北野天満宮にてJA京都市主催の夏季農産物品評会が開催されました。
審査会場には873点もの旬の京野菜が並びます。
この日はあいにくの天気でしたが、夏野菜の彩りと香りに気分も晴れ晴れ。自然の恵みをたっぷりと感じる時間となりました。
もくじ
夏季農産物品評会とは?
夏季農産物品評会は、JA京都市設立当初から50年以上続くもので、夏の京野菜を、大きさや美しさ、品種本来の特性が出ているかなどの視点で評価するコンテストです。秋には平安神宮で冬の京野菜の品評会も行われるそうです。優れた出品者には、上位賞にあたる京都府知事賞・京都市長賞のほか、開催場所からの北野天満宮賞・平安神宮賞など、さまざまな賞が贈られます。
審査は大学の先生や行政の農業振興技術職員の方などによって行われます。評価ポイントは重量感やハリ・ツヤ、曲線美などとのこと。そしていかに審査員の目を引くか。さらに、各野菜の特性を考慮しつつ、キズ・虫食いの確認や花を採った跡まで視られるそうです。
夏季農産物品評会と聞いて、かしこまった雰囲気の少し近寄りがたいコンテストだと思われた方も多いのではないでしょうか?
私もはじめはそう思っていました。しかしいざ会場に着くと、審査中の緊張感は少しあるものの、出品された農家の方や審査員、JA京都市の方など皆さん、和気あいあいと野菜を視て周られていました。
コロナ禍でなければ、品評会の後には一般消費者に向けた即売会もされているとのこと。農家、JA京都市、そして私たち消費者をつなぐ和やかな場が目に浮かびます……。
出品される農家さんの熱意
今回の品評会に出品された、農家の代表として渡邉幸浩さんにお話をうかがいました。苦労された点や品評会への想い、京野菜を継承する想いなど、ざるに盛られた野菜と同じくらいたくさん聞かせていただきました。
「今年は急な雨も多く、天候が不安定な日々が続いたため、品評会の日に合わせて野菜を育てることが難しかったですね。」
品評会当日は朝採りした野菜を会場まで運ぶので、この日のように(品評会当日の天候が)雨の場合は、特に傷つけないように気をつけなければいけないそうです。
「農業は、種・畑・育て方など、代々継承していく文化のひとつだと思っています。だからこの品評会は‘文化を披露する場’。そして他の農家さんとの交流の場でもあります。出品された野菜やお話をとおしては、農業の技術面でもとても刺激を受けます。私は伝統野菜の種を絶やさないように生産しているので、これからも京都の文化である京野菜を守り続けていきたいですね。」
京都市には「振り売り」といって、農家が出荷組合などを介さずに、まちのお客様に直接届ける販売方法があることも特徴のひとつだとか。振り売りを行っているから、まちの人の声を聞くことができるのだそうです。
読者の皆さんへメッセージをお願いします
「京都市では農業は、都市農業として環境の一部になっていると思います。例えば生まれ育った京都に帰ってきたときに、それぞれが抱く風情や風景の一部に農地が存在するように残していきたいですね。農業をそこにある環境として残していくためには、農家やJAだけでなく、消費者も含めたみんなの理解が必要かと思います。歴史や遺産を受け継いできたようにね。コトカレ読者である若い世代の方たちにも農業に興味をもっていただき、京都の農業を守ることを将来の選択肢のひとつとして考えてもらえると嬉しいです。」
こんな京野菜をご存じですか?
品評会の野菜はどれも、今までに見たことがないくらい大きく美しく、私は目を奪われましたが、特に印象に残っている夏の京野菜は、シソ・ナス・トウガラシです。詳しく見ていきましょう!
シソ
京都の名産として、しば漬けを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しば漬けの「しば」とは「赤シソ」のことです。特に赤シソは、大原が有名です。京都では見慣れた光景かもしれませんが、私は赤シソが写真のように大きく束ねて置かれている様子をこれまで見たことがなく、それがシソであると聞いてもなかなか、スーパーに陳列するしば漬けの姿に結びつきませんでした(笑)。
ナス
京野菜で最もよく取り上げられるといっても過言でないのが「賀茂ナス」ではないでしょうか。
賀茂ナスは丸ナスの一種ですが、一般的な丸ナスと中身の水分量に違いがあり、形が崩れにくいところが特徴です。また、他にも今回の品評会のナスには、電球型が特徴の山科ナスやミニサイズのもぎナスをはじめ、たくさんの種類がありました。
電球型の山科ナスはとてもやわらかく、栽培中も出荷時も傷つきやすく大変ですが、加熱調理すると出汁を良く吸い、とてもおいしく仕上がるそうです。
ミニサイズのもぎナスはその名のとおり、一般的なサイズのナスの育成途中のものです。一般的なナスをこのサイズで収穫してしまうとえぐみが出てしまいますが、京野菜として採れるもぎナスはとても甘くおいしく収穫できるそうです。
トウガラシ
京野菜の中でも特に細かく分類されていたのがトウガラシでした。万願寺(まんがんじ)トウガラシ・伏見トウガラシ・鷹峯(たかがみね)トウガラシ・田中トウガラシを紹介していただきました。
万願寺トウガラシ(写真・左上)はスーパーで見かけたことがある方も多いかと思いますが、京野菜を代表する品種のひとつです。一般的なトウガラシとは異なり辛みが少なく食べやすいところが特徴で、近年はそのほとんどが甘くなってきているそうです。
伏見トウガラシ(写真・左下)は万願寺トウガラシよりも細長く、ピリッとした程よい刺激があるとのこと。
そして鷹峯トウガラシ(写真・右上)は万願寺トウガラシよりも肉厚で、へたの部分がなで肩になっており、辛みが少ないのが特徴です。
以上の3つのトウガラシはアオトウガラシに分類されますが、田中トウガラシ(写真・右下)は、実の先端が獅子の頭のような形につまっている「シシトウ」に分類されるそうです。他の3つのトウガラシに比べて短く太く、深い緑色をしており、甘みが特徴です。田中トウガラシの名称は、京都大学に近い、京都市左京区の田中で作られていたことに由来があるもので、今はこの地域ではもう作られておらず、受け継がれていかねばならない品種のひとつです。ちなみに写真の田中トウガラシは京都市長賞を受賞しました。
先ほどの渡邉幸浩さんに、夏の京野菜のおいしい食べ方をお尋ねしました。
夏の京野菜は‘そのまま’がおすすめだそうです!
例えばアオトウガラシとキュウリを良く洗ってから刻み、味噌と和えるだけでお通しが一品できあがり。
最後に。
今回私は、京都に住み始めてまだそれほど経たず、「京野菜」と言われても具体的なイメージを持てないところから取材を始めましたが、取材を終えて、京野菜と言えばコレ!というイメージを持つことができました。
私も、京都で丹精込めて育てられた夏野菜から、夏バテしないパワーをもらおうと思います!
(文 京都橘大学 健康科学部 小池迪代)
(写真 京都大学 法学部 矢野史穂)
(協力 立命館大学 産業社会学部 細田大和)