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#京都里山ぐらしー京都・中川に住む日本画家、幸山ひかりさんにインタビューー

おじゃまします、中川

こんにちは。芸術や美術とは無縁の道を歩んできた山﨑です。

今回は、京都市の中心部から車で30分ほどの京都市北区にある「中川」という集落に取材に行ってきました。中川は北山杉の生産の中心地で、生産地としての独特の風情や、私たちが普段イメージする「京都」とはまた違った里山の文化を持つ地域です。

そんな中川地域にお住いの日本画の画家、幸山ひかりさんにお話を伺ってきました。幸山さんは高校、京都市立芸術大学、大学院と、およそ10年間に渡って京都で日本画を学ばれたそうです。
日本画?日本人が描いた絵ってこと?
と思った私のような人はいませんか??いますよね??

日本画、知っていますか?

インタビューに入る前にお部屋を見せていただきましたが、部屋に置かれたたくさんの絵の具の量に驚きました。学生時代は主に「色」について学んでいたそうで、絵の具についてとても熱くお話をしてくださいました。

(絵の具の種類がとても多く、びっくりしました!)
冒頭で「日本画?日本人が描いた絵ってこと?」と思っていたと書きましたが、そもそも日本画は、洋画と描き方から違うということを幸山さんが教えてくださいました。普通のチューブ絵の具を使うのではなく、岩絵具や水干(すいひ)絵具と呼ばれる天然の鉱物やガラスから作られた粉末状の色材を使うそうです。
また、幸山さんから土絵具という絵具についても伺いました。採取した土を泥水にして煮沸させ、ごみや微生物を滅菌するなど、様々な工程を経て作られた絵の具なのだとか。これら絵具たちはサラサラの砂のようなものなので、牛の骨や皮を煮てできた「にかわ」と呼ばれる液体を接着剤として使います。寝かした紙に上から色をのせるという感覚で絵を描いていくそうです。

ではさっそくインタビューをスタートしましょう。

どうして中川に?


(山々に囲まれた美しい中川の景色)

―――どうして中川に住みたいと思われたんですか?

都会のがやがやした環境が好きではないんです(笑)。都会って良くも悪くも情報があふれているじゃないですか。携帯を開いても情報だらけで。そういうのが苦しくなってきたんです。

それで、自然に触れながらのんびり絵を描きたいなと思い始めました。アトリエを探していた時、アルバイト先のご主人がこの地域の人と知り合いというご縁があって3年前にこの地を知りました。京都市の補助金制度を利用して改装してもらい、ここに住んでいます。環境としてはすごくいいですね。

―――中川に来てよかったなと思うことは何ですか?

人が温かいということをしみじみ感じます。実家は京都の大山崎町というところなんですが、そこではただただ普通に過ごしていました。こっちに来て一人暮らしを初めて経験しましたが、何もかも自分1人でやるのは難しいので人に助けてもらう機会が多く、人との繋がりが大切だなと感じました。家は近すぎず遠すぎないくらいに離れていて、近所の人がお野菜を持ってきてくださったり、不便なことがあったら聞きに行ったり、物を貸してもらったりしています。

―――中川の魅力とは?

(北山杉の産地として社会科の教科書でも紹介された丸太小屋。これぞ中川の風景。ここで丸太を乾かします。)

中川は都が近くにありながら建材がとれる地域として、家の床柱にも使われる北山杉を中心とした林業が盛んで、独特な発展の仕方をしているめずらしい場所です。また、家ごとに特有の杉の絵が描かれた小さな器を持っているといった土着的な文化もあります。紅葉で有名な高雄も近く、山や自然に囲まれたあったかい場所で、観光地からは少し離れているので知る人ぞ知る場所って感じです。

日本画に魅了された理由


(絵の具の粒が小さくなるにつれて淡い色になっていくそうです)

―――どうして日本画を好きになったのですか?

もともと絵が好きで、おじいちゃんから写生を学んだりしていました。そして、中学2年生の時、たまたま伊藤若冲の「若冲展」を見て衝撃を受けたんです。奇抜な鶏の絵なんですが、色彩がすごくて生き生きしていましたね。西洋的なデッサンとは違い、日本美術は光と陰で表すだけではなくて、そこに画家本人の“見方・捉え方”が色彩や筆に投影されているという点が独特だと感じます。「日本画」という言葉は、黒船来航の頃に入ってきた「西洋画」に対して明治時代に生まれました。日本では古来より人々の生活や歴史の中で独自の美術様式が育まれてきました。明治以降は西洋のものと意識し合って育ってきたという感じで、いつからか木のパネルに和紙を張って描くようになり、美術館で鑑賞するための対象としても発展していきました。
深い歴史と豊かな色彩にどんどんと心惹かれていったんです。

―――ところで、画家さんのスケジュールが気になります!教えてください!

結構荒れ狂ってますよ(笑)。夜眠くなるまで描いて、昼から起きて……というようにかなりずれこんでいますね。気ままに描いています。勉強する上でもそうだと思うけど、家族がいたりするとなかなか集中できない。実家で家族が寝静まった夜の時間帯が一人暮らしの疑似体験みたいな感じで、学生時代もその時間に絵を描いていました。その名残ですかね。

―――幸山さんの夢は何ですか?

最近「美術館で個展がしたい」という夢が1つ叶いました。12月に愛知県清須市のはるひ美術館で展覧会を開くことになりました。この展覧会では「胎内巡り」のようなものを作りたいと思っています。清水寺などにある「胎内巡り」って知ってますか?仏の体内を模したような真っ暗な空間が地下にあって、数珠でつながれた手すりを持ちながら一周するものです。胎内巡りを終えた時には身も心も生まれ変わっている、というとても仏教的なものなんですが、私も美術館でオリジナルの胎内巡りのようなものができたらなと思っています。死生観にまつわるような「最果て」の景色を描いているので、ぐるっと絵を見て回った後に、小さな旅をして帰ってきたような気分になっていただけたらな、と思います。

ケイトウの花の意味

―――幸山さんの作品にはすべて同じ花が描かれていますが何か意味はあるんですか?

これは「ケイトウ」という花です。初めてこの花を見たのが大学3年生で、色鮮やかで燃えているような印象を受けました。昔は畑などに咲いていて身近にあったそうですが、今はまるっきり見なくなりましたね。日本画を描くとき、人の絵を描きたくても人をそのまま描いてしまうと私にはイメージが強く出来上がりすぎてしまって少し嫌なんです(笑)。
私にとってケイトウの花は、私の描きたい人々のイメージにぴったりでした。なのでこの花ばかりを描いています。抽象的であるけど、見る人によってはいろんな見方ができるので良いと思いますね。

描きたいものをそのまま描くのではなく、何か別の物にそのイメージを投影して、思い出や人生観を表すというのはとても日本的だなと感じます。例えば水面の絵を見て、少年期に釣りをした思い出を持つ人や、辛い時に海を眺めた思い出がある人など、同じ絵でも見る人によって違った景色が見えてくると思うんです。絵の横に書いてある説明文や知識で絵を見がちですが、自分の経験を投影してみたりしてあなた自身の見方で見てほしいなと思います。物の見方に正解はないですからね。「私って絵のこと全然わからない」とか言わないで自由に見てほしいです。実際に美術館で絵を見ると、絵がぼこぼこしていることに気づいたり、自然の色がたくさん使われていることが分かったり、ネットで見る以上の色彩が目に飛び込んでくると思います。そこで受ける印象を大切にしてほしいです。

これからの活動について

2020年10月31日(土)から12月6日(日)まで、京都市京セラ美術館の東山キューブで開催される「KYOTO STEAM 2020 国際アートコンペティション スタートアップ展」に京都市立芸術大学 日本画チームのメンバーとして出展させていただいています。

この展覧会は、新型コロナウィルスの感染拡大防止のために中止となった2つの展覧会のの作品(※)を再構成し、さらにアートとサイエンス・テクノロジーの融合を通じて新たな価値の創造を目指している企業の作品が展覧されます。

公募によって選ばれたアーティストと企業・研究機関などがコラボレーションして作品を生み出すというもので、私もチームのメンバーとしてディスカッションしながら作品を作ったのでぜひ見てほしいです。

(※)
・「STEAM THINKING-未来を創るアート京都からの挑戦 国際アートコンペティション スタートアップ」展の7組のアーティストと企業・研究機関のコラボレーション作品

・「STEAM THINKING-未来を創るアート京都からの挑戦アート×サイエンス GIG」の3つの芸術系大学と企業・研究機関のコラボレーション作品

KYOTO STEAM 2020 国際アートコンペティション スタートアップ展の公式サイト
https://kyoto-steam.com/program/event01/

インタビューを終えて

まず、中川が京都の中心部からそれほど離れていないのに、文化が違うという点に驚きました。そして実際に中川を訪れてみて、山に挟まれた地域で自然があふれていて、ゆったり過ごすのには最高の場所だと感じました。そんなゆったりした環境だからこそ、自分を見つめなおす余裕ができ、芸術家の方達にとっても過ごしやすいのだと実感しました。

私は日本画だけでなく美術全般に関して全く知識がなく、心なしか美術館を遠い存在だと決めつけていましたが、今回幸山さんのお話を聞いて、美術作品への見方ががらっと変わりました。これからは日本画をはじめとする絵画にも自分なりの見方で触れていきたいなと思います。

そして、お話の中で出てきた清水寺での胎内巡りも、京都にいる間にやってみます!

(同志社大学 グローバル地域文化学部 山﨑凜)

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