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今を生きる術を探る 山田洋次監督特別講義「映画をつくる」レポート

さっそくですが、皆さんは山田洋次監督をご存知でしょうか?
「普段映画はそんなに見ない」という人でも、きっと一度は名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。

『男はつらいよ』シリーズや『幸福の黄色いハンカチ』『学校』『母と暮せば』、近年では『家族はつらいよ』シリーズなど、半世紀以上にわたって不朽の名作を生み出しつづけている山田監督は、まさに「日本映画の立役者」。

そんな山田監督をゲストにお迎えした、「京都三大学学生企画講演会 山田洋次監督特別講義『映画をつくる』」が、6月27日に京都府立大学内の教養教育共同化施設「稲盛記念会館」で開催されました。今回の記事では、その様子をレポートします!

左から実行委員の 安江さん、杉山さん、池田さん

京都府立大学・京都工芸繊維大学・京都府立医科大学は「京都三大学教養教育共同化」として、各大学の強みと特徴を生かした科目を提供しあい共同開講しており、「京都学」科目や、少人数での討論等を中心とした「リベラルアーツ・ゼミナール」など、三大学の学生が一緒に学び交流する特色ある共同化科目を展開しています。

その共同化科目のリベラルアーツ・ゼミナールの一つである、「現代社会と映画製作」を受講する三大学の学生たちが、授業で取り上げた山田監督の作品に感銘を受け、「実際に山田監督をお招きして講演会を開きたい」と考えたことから今回の特別講義が実現したそう。

というわけでこの企画、なんと企画・運営は京都の大学生が行ったものなのです! 今回運営に携わったのは京都府立大・京都工芸繊維大・京都府立医科大の学生のみなさんです。

壇上には山田監督と、特別講義の実行委員会の学生代表である京都府立大学・京都工芸繊維大学・京都府立医科大学の学生のみなさんと、「現代社会と映画製作」担当講師の長坂勉氏が登壇されました。

講義の中では、山田監督と学生のみなさんの質疑応答を通じてさまざまなエピソードが引き出されていくのですが、この学生たちが本当にすごい。会場で質疑応答を聞いているだけでも、彼らの熱意や丁寧に準備してきた様子が目に浮かぶほど、しっかりした受け答えをしているみなさんの姿に、講義を聞きながらもついつい感動してしまいました……。

会場に山田監督が登場すると、会場からは盛大な拍手が起こりました。冒頭のあいさつとして「京都」という街のよさについて語ってくださり、京都で学生生活を送ることに想いを馳せることができました。

さて、ここから山田監督と登壇した学生たちとの質疑応答が始まります。

 

映画づくりのアイデアは、どこから?

学生から最初に出た質問は、「作品の題材はどのようにして得るのか、また、スクリーンから伝わる鋭い問題意識は磨かれるのか」というもの。映画に興味のある学生なら当然気になるだろうこの質問。山田監督の回答は……

「映画を作る仕事(=クリエイターのような仕事)に就いているから、メディアや文学作品に触れる中で、自然と自分の映画と結び付けてしまう」とのことでした。ここで、山田監督は『家族』(1970)製作時のエピソードを披露。高度経済成長期、大きな荷物を持った家族が駅で電車を待っている様子を見かけたことが着想の元になったそうです。そのエピソードひとつとってもまるで小説のような情景描写で語られ、山田監督の視点の鋭さが感じられました。

「(彼ら家族には)辛いこと、怖いことがこれから待っているかもしれない。新しい生活も、どうなるかわからない。それが映画の始まりの一つなんです」というコメントが印象的でした。

さらに、みなさんご存知『男はつらいよ』シリーズの誕生秘話も披露してくださいました。山田監督は、いつも起用予定の俳優に先にお会いすることでイメージを掴むらしく、このときは主人公の寅さん役・渥美 清さんの話の面白さや「“テキ屋”に憧れていた」という言葉から「テキ屋の寅さん」というキャラクターが生まれたそう。どんな映画の主人公にもモデルが存在するようです。

このように、監督は、日々のささやかな発見や驚きを作品づくりの原動力にされているのでした。

 

「人と人のつながり」

次の質問は、「山田監督が自身の作品に込めたメッセージ」についてでした。登壇学生も、山田監督を目の前に、自分が作品を観たうえで抱いた意見や感想をしっかり述べていました。彼らは山田監督の作品から、「人と人のつながり」が全作品に共通するテーマになっているのではないかと感じた様子。

それに対して山田監督は……「あらゆる作品が『人と人のつながり』を描いているんじゃないかな」とバサリ! 確かに、どの映画作品でも「人と人のつながり」は描かれているかもしれません。どうやら山田監督は、「人と人のつながり」を超えた「劇的関係(=ドラマ性)」を意識しているようです。

ここで登場したのが、『学校Ⅱ』(1996)のエピソード。これは、高等養護学校を舞台に、本当は進学校に赴任したかった新米教師・小林先生の葛藤と成長が描かれています。この映画を作る際に参考にされたのが、名監督・黒澤 明監督の『赤ひげ』(1965)。この作品でも、江戸時代を舞台にしながらも、葛藤の中で成長していく若い医師の姿が描かれています。

「“ドラマ性”というものはどの作品にもあって、それらはすべて説明することができる」と山田監督は述べます。映画を作るときには、「どんなドラマを軸に据えるか?」が大切になってくるわけですね。

 

現代社会×山田洋次監督

次の質問は、先ほども登場した『学校Ⅱ』に関するもの。この映画に「マイノリティの人々と正面から向き合う姿」を見出し、「今、わたしたちが“マイノリティ”と呼ばれる人々と向き合うための心がけ」を問いました。私、この質問に感服したのですが、それは「20年前に完成した映画に、現代社会での問題を見出している」点。映画が時代を超えて愛される所以でもあるのかなあ、と感じました。

それに対して山田監督は、実際の養護学校の校長先生が行った、障がいをもつ子どもたちを飽きさせないような工夫を語り、「子どもたちを愛する」という姿勢の大切さを語りました。マイノリティの人々と向き合うためには、その人ひとりひとりの立場で喜んでもらえることを考え、それを行動に表すことが大事なのだと実感しました。

次に学生が目を付けたのは、「現代には笑いを忘れた人がいる」ということ。それに関連して、「山田監督は映画のなかでどんな笑いを追求しているのか、また何を大切にしているのか」という問いを投げかけました。うーん、深いですね。

監督は自身の青年時代のエピソードを紹介されました。敗戦後の生活が苦しい中、闇市の仕事で出会った同業者がとても面白い人で、辛い時はいつも冗談を言って笑わせてくれたお陰で、気持ちが明るくなり乗り切れたそうです。「苦しく辛い思いをしている人を励ますのは、激励でも叱責でもなく笑いだ」という言葉、また「笑いというのは「みんな同じ人間だ」という「共感」から生まれるんだ」という言葉は胸にしみました。

今の時代を生き抜くこと

ここにきて、戦争を題材にした映画作品(『母べえ』『小さいおうち』『母と暮せば』など)についての質問が出ました。内容は、「自分たちの自由や生活を守るために心がけるべきものは何か」というもの。山田監督の作品が戦時下の日常生活を描くことで、かえって「戦争の時代の暗い影」もリアルに描き出されている点に魅力を抱いた学生もいるようです。

山田監督も、この質問は特に大事な問題であると考えているそう。自分たちの生活も含め、戦争がどれだけ自分を苦しめていたかについて、また身近に起きた言論統制の影響についても言及します。特に印象的だったのが、監督の「民主主義の社会では、自分の意見を持つことは当然のことでしょう。また、他人の意見に耳を傾け、議論をして、例え少数意見でも正しければ意見を変えていくことも大切です」という発言です。実行委員の学生さんは、それは日常会話から政治まで、あらゆる場面で大切なのではないかと応答しました。私たち若者のなかでは、自分の意見を曖昧にすることや、自分の意見を主張しないことが半ば当たり前のように受け入れられることもあります。山田監督の何気ない発言が、私の背筋を正してくれるような気がしました。

最後に、「大学生に経験してほしいことは何か」という問いが投げかけられました。山田監督からは「大学の4年間は、肉体的にも精神的にも人間の土台が作られるときであり、たくさん本を読んで映画を観て物事の原理や基本について考えて欲しい。その中から、世界がこの先どうあらねばならないか、自分はどうやって生きていけばいいのかを学んで欲しい」という答えが。また、「寅さん流に言えば、恋をしなさい」という激励(?)もいただきました!

 

学生たちの思い

大盛況のうちに終わった特別講義。質疑応答の際にも登壇された、実行委員長の安江範泰さん(京都府立大学)にもお話を伺うことが出来ました。

先述の「現代社会と映画製作」で山田洋次監督の作品に触れ、魅了された学生たち。安江さんを含めた実行委員の学生メンバーが担当教員や大学の助力を得て、山田監督をお呼びして特別講義を開催することが実現しました。企画した学生たちは、半年以上前から幾度にも及ぶ打ち合わせを開いて構想を練るとともに、自主的に映画上映会を開催し、映画を観て考えたことについて学生同士で意見を出し合い、山田監督やその作品への理解を深めてきたそうです。写真に写っている細かく書き込まれた資料に、努力の跡が見えますね!

安江さんたちは、「現代社会と映画製作」などの共同化科目に加え、自主映画上映会の中で、専攻の違う学生同士が様々な目線で映画を観ていることがわかり、様々な考え方に触れることができたそうです。そのなかで、物事に対する多角的な見方が培われたと安江さんはいいます。実はこの過程は、山田監督が述べていた「自分の意見を持つこと、他人の意見に耳を傾けること」にほかなりません。

これだけの準備を重ねても、「(山田)監督の返してくださる答えは自分たちの想像のはるか上をいっていた」と語る安江さん。きっと、「映画をつくる」ということそれ自体にとどまらず、「私たちが現代を生きる術」についても興味深い答えが得られたことでしょう。

安江さんが語る山田監督作品の魅力は「生活者目線であること」。つまり、われわれにも馴染みやすい、日々の暮らしを描いていることが大きな魅力なのです。この記事が目に留まったみなさん、これを機に山田監督の世界へ飛び立ってみませんか?

 

(京都大学 池垣早苗)

 

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