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現代アート in 遺産。アジア回廊現代美術展の「すごい作品」たち

こんにちは、池垣です。

つい先日まで、ここ京都で国際美術展が行われていたことはご存知ですか?

その名も「アジア回廊 現代美術展」です。これは「東アジア文化都市2017京都(※)」のメインプログラムとして2017年8月19日~10月15日の58日間にわたり開催されていた美術展で、日中韓の現代アーティスト25組の作品が紹介されていました。そこで見ることができたのは、〈非日常〉と〈日常〉が融合する不思議な空間。

(※)日中韓文化大臣会合での合意に基づき、日本・中国・韓国の3か国において、文化芸術による発展を目指す都市を選定し、その都市において、現代の芸術文化や伝統文化、また多彩な生活文化に関連する様々な文化芸術イベント等を実施するもの。

東アジア文化都市2017京都 公式ホームページ

今回はそのうち、かの有名な世界遺産「元離宮 二条城」で展示されていた作品を、「いいとこどり」でご紹介します。日本各所で類似した取り組みはは行われているものの、世界遺産を舞台にした展示は珍しいのではないのでしょうか。

 

「台所」に並ぶ作品群

では、さっそく作品をみていきましょう。まずは、東大手門入ってすぐの「台所/御清所(おきよどころ)」から。こちらは国の重要文化財にも指定されている、通常非公開の建築。台所は江戸時代、その名の通り「キッチン」として使われており、御清所は台所で作られた料理を温める際に使われました。

チェ・ジョンファ《アルケミー(錬金術)》(2015年)
チェ・ジョンファ《アルケミー(錬金術)》(2015年)

最初は韓国人作家、チェ・ジョンファさんの作品。どこか仏教的な装飾をも連想させるオブジェの数々。なんと、台所用品であるプラスチック製のザルやボウルを組み合わせたもの!内部の電飾がきらきらと反射し、極彩色が美しい作品。

チェ・ジョンファ《涅槃(ねはん)》(2017)
チェ・ジョンファ《涅槃(ねはん)》(2017)

こちらもチェ・ジョンファさんが制作した作品。突如目の前に現れる巨大な大根に、あっけにとられるのもつかの間。この大根、上下に動いて「呼吸」するのです。ただただ「大根が呼吸している…!」ということで頭がいっぱいになってしまう作品です。作者が敬愛する日本の画家・伊藤若冲の水墨画《果蔬涅槃図(かそうねはんず)》に描かれた大根をモチーフとしているとか。

草間彌生《無限の網のうちに消滅するミロのビーナス》(1998年)
草間彌生《無限の網のうちに消滅するミロのビーナス》(1998年)

かの有名な草間彌生さんの作品。落ち着いた色彩ながら、草間さんの作品を象徴する「ドット柄」は健在。見る角度によって、まるで絵画にビーナスが溶け込むかのような感覚に陥ります。ビーナスと記念撮影をするお客さんもちらほら。

宮永愛子《結(二条城)》(2017年)

宮永愛子《結(二条城)》(2017年)
宮永愛子《結(二条城)》(2017年)

防虫剤にも用いられるナフタレンや塩を使ったインスタレーション(展示空間全体をアートとする手法)で有名な宮永愛子さんの作品。さまざまな海の水からできた塩の結晶をまとった糸が、海のない京都のまちに細く揺れています。そして、本来漁業用に使われる浮き球。海の色を薄めたようなガラス色が、観る人の心に単なる「海」をこえた、澄んだ光と影を落としていくようでした。

西京人(小沢剛/チェン・シャオション/ギムホンソック)《第4章:アイラブ西京―西京国大統領の日常》(2009年)

西京人(小沢剛/チェン・シャオション/ギムホンソック)《第4章:アイラブ西京―西京国大統領の日常》(2009年)
西京人(小沢剛/チェン・シャオション/ギムホンソック)《第4章:アイラブ西京―西京国大統領の日常》(2009年)

日中韓から集まったアーティスト集団・西京人による作品。会場の一室を舞台に、アジアのどこかにある架空の都市国家(!)「西京国」の大統領執務室を展示するという、非常に面白い企画です。

上の写真は、西京国のまちづくりについてスイカを用いて立体的に討論している様子、そして下は、西京国の紙幣(なんとティッシュペーパー製)です。無造作に置かれたスタンプからも手作り感がにじみ出る仕上がり。架空の物語のようにみえて、現代社会を鋭く照射しているのがポイント。

谷澤紗和子《容》(2017年)
谷澤紗和子《容》(2017年)

ぎょっ!? 宇宙人のようなこちらの作品群は、京都在住のアーティスト、谷澤紗和子さんによるもの。陶土で出来たオブジェに貝をはめ込みそのまま焼くことで、貝だけが燃え尽き目・鼻・口などの穴になるとか。人々の足跡がついた発泡スチロールに置かれたオブジェは、日光に照らされる反面「野ざらし」にされているよう。どことなく儚さを感じさせます。

 

「城」に呼応する作品

作品だけでなく、「城」の建築自体も楽しめるのがこの美術展の魅力。設置する作品はもちろん、作品を設置する場所も作家の皆さんが選定したとか。二条城を舞台にした展示はまだまだ続きます。

ツァイ・グオチャン《盆栽の舟:東アジア文化都市2017京都のためのプロジェクト》(2017年)
ツァイ・グオチャン《盆栽の舟:東アジア文化都市2017京都のためのプロジェクト》(2017年)

「いつからここにあるのだろう」という問いさえ思い浮かばせるほど、「二条城」という舞台に調和しているようにみえる作品。しかしこれは、昨年度の「東アジア文化都市」(毎年異なる開催都市が選定される。昨年度は奈良市)の際に設置された木造船。この船が向かう行き先はどこでしょうか。この船が運ぶのはどんな人々(もしくは歴史)でしょうか。はたまた、この船は一夜の幻想なのでしょうか。目の前には、ただ青い空と、平穏な風景だけが広がっていました。

ハム・キョンア《アンカモフラージュ シリーズ01–­­­­­05》(2016年)
ハム・キョンア《アンカモフラージュ シリーズ01–­­­­­05》(2016年)

こちらは一転、二条城の風景からはかけ離れた、異質ともとれる作品。ペンギン、手足、ゲームのキャラクター、お尻…。様々なものを連想させるシルエットですが、実は迷彩柄を3Dプリンタで立体物として作成したもの。真っ白な立体になった「ものを隠さない」迷彩は、景色に同化しようともせず、もはや迷彩とはいえない物体として捉えられます。人工的である反面、想像力をかきたてる存在に昇華されています。

久門剛史《風》(2017年)
久門剛史《風》(2017年)

今度は、名前の通り二条城の隅にある東南隅櫓(とうなんすみやぐら)で展示されたインスタレーション作品。ガラスケース内の電球がそれぞれのテンポを刻みながら揺れ、ランダムに明滅を繰り返すなかで、2階からは嵐のような激しい風が吹き荒れる音が聴こえてきます。しかし、それぞれのテンポは、風とは全く無関係に保たれます。「風」という大きな力(=社会的権力)と共存し影響を受けながらも、独立し存在する電球(=個人)が暗示される展示です。

 

まさかの遭遇

花岡伸宏《無題(石垣、鉛筆、詰め込み)》(2017年)
花岡伸宏《無題(石垣、鉛筆、詰め込み)》(2017年)

つづいては、またまた京都を拠点にする新進気鋭の作家、花岡伸宏さんによる作品。「ん?ただの石垣では?」と思うなかれ。

花岡伸宏《無題(石垣、鉛筆、詰め込み)》(2017年)

服(と布製のキャンバス)が石垣に詰め込まれてる。なんで?
そのほかにも、

花岡伸宏《未完の積み上げ》(2017年)
花岡伸宏《未完の積み上げ》(2017年)

こんなふうにイカしたベンチの様なオブジェがあったり(完全に風景に溶け込んでる)、

花岡伸宏《無題(頭部、雑誌、畳)》(2017年)
花岡伸宏《無題(頭部、雑誌、畳)》(2017年)
花岡伸宏《無題(その他)》(2017年)
花岡伸宏《無題(その他)》(2017年)

木製の頭や手があったり。土曜日の昼下がり、カオス度が高い。

芸術ビギナーの私がこんな展示を見たときに必ず思うのが、「なんでこんな作品になったんだろう?」という疑問。どういう深い思想を持てば作品にたどりつくんだろう……偏見だけど作家さんは気難しそう……。

奇しくもその時、通りかかったのが家族連れで来場していた花岡さんご本人。

花岡伸宏さん
花岡伸宏さん

(め、めちゃくちゃいい人そう! 普通の優しいお父さんに見える!)
思い切って聞いてみました。

「な、なんで石垣に服を詰め込もうと思ったんですか……?」

「うーん。……なんでやろうねえ(笑)なぜか詰め込みたくなったんですよ!」

「(心の中で)詰め込みたくなったんかい!」

「芸術作家」というだけでなんとなく気難しそうという、私の予想を見事に裏切ってくれた、気さくな作家さんでした。

もともと木製彫刻や既製品を組み合わせた立体作品を制作している花岡さん。今回のシリーズでは、これまでの花岡さんの作品要素に加え、桜並木や石垣を模した形を加えて「展覧会場への溶け込み」を意識したとか。普段は右京区の閑静な山奥で作品を作っている花岡さん。今後の作品にも注目です。

 

衝撃の「ブツ」

展示もついに終盤に。

ヘ・シャンユ《城》(2017年)
ヘ・シャンユ《城》(2017年)

こ、これは、まさか。

そうです。その通りです。道中にブロンズ製の「ブツ」が散乱しているというアバンギャルドな展示。しかも踏んである!

ヘ・シャンユ《城》(2017年)

ガシッ。汚れないし怒られない。最高。しかもひんやり。

ヘ・シャンユ《城》(2017年)

遠くから見ても「ブツ」。遠景に人が歩いているとさらに違和感が。

こちらは、排泄物とそれをふいに踏んでしまった足跡(予測不可能な形、形のないもの)をブロンズで製作することで、先入観や身体的感覚との「ずれ」を来場客に生じさせ、視覚の優位性を問う展示だそうです。確かに「ブツ」がブロンズで出来てるとは思いませんもんね。というか普通、二条城に散乱しているとは思わない。

 

いかがでしたか?

チェ・ジョンファ《呼吸する花(808の漢字)》(2016年)
チェ・ジョンファ《呼吸する花(808の漢字)》(2016年)

最後は、大きな花を模した作品本体(ゆったりと呼吸する)に808個の漢字が書いてある、印象的な作品でお別れしましょう。

普段なかなか見る機会の少ない現代アート、あまり難しいものだと思い込まず、ぜひあなたなりの感性で見つめてください。現代アートの特徴は、ただ見るだけでなく五感を使って感じることができる点。等身大の作品を見つめたら、きっともっと楽しい世界が広がりますよ!

「東アジア文化都市2017京都」は11月19日(日)に閉幕を迎えますが,12月22日(金)まで,本事業と連携したイベントが行われますので,ぜひ足を運んでみてください。

イベント情報はこちら

 

(京都大学 文学部 池垣早苗)

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